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千里: +
クルル: +

「17だよ」
 歳を聞かれるってことは、エデンでも飲酒に年齢制限があるってことなのか? でも、この子だってまだ未成年だろうに、酒場のバイトなんかしていいのかなあ?
 まあ、実際アルコールには自信がなかったし、足がもつれたりしちゃ今後の行動に支障があるので、飲む気はもとよりなかったが。
「彼はフルーツジュースにしてあげて。あたいはカクテル、マタタビは薄めにね」
 ミャウは飲んでいく気らしい。堂々と注文してるところを見ると、20歳過ぎということか。顔だけ見れば、朋也と変わらない年頃に見えなくもないが……。
「クフフ、2人ともとっても仲がいいんだね♪」
 ウェイトレスの女の子はにっこり微笑んで言った。冷やかしだったが、嫌味には感じない。
「お兄さんもマタタビ入れる?」
「ええっと……じゃあ、少しだけ」
 朋也は興味本位であえて挑戦してみることにした。いくらネコスキルが付いたといっても、自分はニンゲンなんだからさすがに影響は受けないに違いない。でも、考えてみれば、アルコールに年齢制限があってマタタビにないのはオカシイ気がする。
 ほどなく、バーテンの用意してくれたマタタビ入りジュースが運ばれてきた。恐る恐る一口すすってみる。まあ、ただのジュースだよな──
 と思っていたら、しばらくして身体がフワッと浮き上がるような感覚が襲ってきた。ヤバイ、これじゃアルコール飲んでるのと変わらないや……。
 グラスの中をのぞきながら目をしばたたいていると、不意にミャウが手を握ってきた。うっとりとした目つきで朋也の視線を捉えようとする。ひょっとして、彼女も酔ってたり?
「ミャウ!? ちょ、ちょっと待──」
「しっ。合わせて」
 小声でささやき、目で合図する。しゃべっているとイヌたちの会話が聞き取れないし、あからさまに聞き耳を立てるわけにもいかないから、見つめ合う恋人を演じようというわけだ。
 だが、彼女の目を見てると胸がドキドキして、とてもじゃないが他のことに集中なんてできなかった。ム、無理だよ、そんな演技……。
 ミャウはあきらめたように軽くため息をつくと、今度は椅子を寄せ、朋也にしなだれかかってきて目を伏せた。
「これニャら大丈夫でしょ? 肩を抱いて」
 確かに少しはマシだが、心拍数は飛び上がったままだ。遠慮がちにミャウの肩に手を回すと、彼女の肌の温もりではなくイヌたちの声のほうに神経を傾けようとギュッと目をつぶる。これじゃ全然自然な恋人同士には見えないだろうなあ。自分に演劇の才能がないのを朋也はつくづく思い知った。
 自分の鼓動に邪魔されつつも、彼らのブツブツ言う声がようやく途切れ途切れに耳に入ってきた。
「まったく気に入らねえぜ、あのネコ族め。ボスに取り入りやがって」
「なんであいつがナンバー2なんだよ? ネコの下に就いて指示に従うなんて、俺はぜってえ我慢できねえ!」
「大体、ユフラファのウサギどもに頭を下げるなんざ、デカイのは図体だけでとんだ小心者の証拠じゃねえか」
「まあそう言うな。ボスだってな、端から奴のことを信用してるわけじゃないんだ。ボスが心を開いてるのは俺たち同族だけよ。ただ神殿の完成を急ぎたいだけなのさ。そう、神獣が眠ってる間にな……。例のブツも手に入ったことだし、後は──」
 ボスってのはゲドの言ってたのと同一人物のことかな? 直接千里のことに触れてはいなかったが(まさか〝ブツ〟じゃないよな……)、おそらく同じ組織に違いあるまい。
「おい、ミャウ……」
 小声でミャウに促す。
「ニャァニ、朋也? あたい、もう少しこうしてたいわ」
 彼女は潤んだ瞳を向けたまま朋也から離れようとしない。おいおい、本当に酔いが回ったんじゃないだろうな!?
 と、そのときイヌたちのそばで元気のいい声が響いた。ウェイトレスの女の子だ。
「ねえ、オジサンたち、いまユフラファって言わなかった? そこ、クルルの村なんだよっ♪」
 その子は出身地の名が出てきたので話を聞きたがっただけなのだろう。だが、一党の中にいた神経質そうなスピッツが彼女の腕をつかみ、キャンキャン声で吠えかかった。
「やい、女! 他人の話を盗み聞きするんじゃねえ!」
「きゃあっ! ご、ごめんなさい。クルル、そんなつもりなかったんだよっ」


*選択肢    助ける    助けない

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