これまでも、謎の怪物に襲われたり、朋也たちのエデンへの来訪が知れ渡っていることが発覚した際に、マーヤはパーティの仲間に自分の知っているはずの秘密を隠し続けてきた。朋也にもそれはわかっていた。だが……彼女の目にたまった涙が、演技でも何でもない本物であることもよくわかってる。
「ジュディ。たとえカイトが神獣の指示で動いてるとしても、マーヤがそれを知らされていたとは限らないだろ? 俺たちはここまでずっとマーヤと旅を続けてきたじゃないか……。お前の命だって救ってくれたんだぜ? その彼女が、お前のご主人サマを危険にさらすような真似をすると思うのか!?」
それを聞いて、ジュディは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに鼻に皺を寄せてきっとにらみつけた。
「わかったよ……朋也はボクよりそいつの言うことの方を信じるっていうんだね? だったら、お前なんかとはもう絶交だっ!! たとえボク1人になっても、ご主人サマは必ず助けだしてやる!!」
投げつけるようにそう言うと、ダッと駆け出す。
「あっ、おい、待てよ! ジュディッ!!」
朋也はあわてて彼女の後を追おうとしたが、ジュディの姿は見る見るうちに遠ざかり、あっという間に崖の向こうに回って見えなくなってしまった。ゲドのときもそうだったが、成熟形態のイヌ族が本気でスパートをかけると、ヒト族の足では到底太刀打ちできない。
途中であきらめて仲間のところに引き返すと、朋也は肩で息をしながら膝に手をついた。
「ゼェゼェ……まったくしょうがないやつだなあ。1人で千里を助け出すなんて絶対無理に決まってるのに」
「ジュディィ……」
マーヤが彼女の後ろ姿の消えたほうを見やりながら、心配そうにつぶやく。
「ともかく、ジュディが無茶する前に追い着くか、千里を取り戻すかしないと……。ジュディが1人でどっか行っちゃったなんて千里にバレたら、きっとあいつに黒焦げにされるよな?
「バカイヌのことニャンか別にほっときゃいいじゃん♪」
「こら、ミオ!」
一声たしなめると、後ろ手を組んで口笛を吹き始める……。
朋也はため息を吐くと、改めてマーヤに向き直った。
「なあ、マーヤ。レゴラスってどこにあるんだ?」
「レゴラスの神殿は大陸の東の海に浮かぶ絶海の孤島にあるのぉー。そこが神獣キマイラ様の御座所……。でも、ここから行くとなると結構かかるわねぇ~。まずエルロンの森を抜けてぇ、その南にあるシエナの街に行かなきゃぁー。そこから後は真っすぐ東を目指せば港町ポートグレーに達するわぁー。レゴラス行の船もそこから出てるのぉー」
そこで、しばらく考え込んでいたクルルが口を開いた。
「ねえ、朋也。こういう非常事態だし、クルル、ユフラファに戻るのは後回しにするよ」
「えっ!? でも、村の人たちに悪くないかな?」
新たに設定された期限は2週間。場所も大陸の反対側の海の上と来ている以上、ユフラファまで引き返さずに一刻も早くレゴラスに向けて出発できれば、それに越したことはないが……。
戸惑っている朋也に、クルルはポンと胸をたたいて見せた。
「大丈夫! みんなだってクルルに負けないくらいたくましいんだから! それに、今は少しでも朋也たちの役に立ちたいんだ……。だから、ね? 第一、クルルがいないとみんな食べるものに困っちゃうでしょ、クフフ♪ ビスケットのことならクルルに任せといてね♥」