悲しい出来事で1日が幕を開けた。朋也たちは里の妖精たちと一緒に、亡くなった妖精の亡骸を泉のほとりの墓地に運び、遺品とともに埋葬した。亡くなったのは村の開祖の1人だった。まだ300歳になったばかりだという。
「まだまだこれからだったのに……」
そう嘆く声を聞き、朋也は耳を疑った。エデンの妖精たちって一体いくつまで生きるんだ?? 聞くと、寿命はみなきっかり千年とか……。そういえば、マーヤって一体いくつなんだろ? 怖くてちょっと訊く気にならないけど……。
里へ引き返す道すがら、彼女が声をかけてきた。
「フィルは……たぶん、大丈夫だよぉ。神木の力を借りた樹の精だからぁ。実体を取り戻すまでには時間がかかるだろうけどぉ……」
よかった……。心から安堵する。そういや、彼女たちはいわば親友同士なんだもんなあ……。
里に戻って遅い朝食を済ませた後、朋也たちは予定どおりシエナに向かって発つ準備を始めた。また千里を狙う追っ手が現れ、村のみんなに迷惑がかからないとも限らない。
とはいえ、隠れ里の所在がキマイラにバレたとすると、いずれにしても、妖精たちがせっかく手に入れた平穏な暮らしもこれ以上続けられないかもしれない……。自分たちが不在のときに、この里が他の三獣使に襲われたりしないか? という不安も残る。エルロンの樹の精もいなくなってしまい、他の種族たちの目も誤魔化せなくなった。マーヤ以外の妖精たちは戦闘にも不慣れなようだし、かといって彼女1人に押し付けるわけにもいかないし……。
朋也が重い気分で荷造りをしていたところに、マーヤがやってきた。
「朋也ぁ……みんなも……あたし、決めたよぉー」
「え?」
「あたし、レゴラスに行くよぉ。みんなと一緒にぃ……ジュディを助けにぃ!」
「ホント!?」
クルルが無邪気にはしゃぐ。
「そうか……。でも、隠れ里のみんなはこれからどうするんだ?」
「うん。そのこともねぇ、みんなと話し合ったんだぁ。もう隠れるのは終わりにしようって。どのみち見つかっちゃったんだしねぇ~」
本人もあまり深刻に受け止めてないなあ。
「そんな呑気なこと言って、あいつみたいな怪物がまだ2頭残ってるんだろ? いつまた狙われるか──」
「ねえ、朋也ぁ。ビスタでのこと、覚えてるぅ? 街のみんな、あなたがニンゲンだって知っても、味方してくれなかったぁ?」
朋也は腕組みしてうなった。それは……確かにそうだ。世界を滅ぼしかけた一族の末裔でさえかばってくれた人々なんだから、ちょっと毛色の違ったことをしてる妖精だからって、彼女たちの味方になってくれない理由はないよな……。
「里のみんなもねぇ、これからは大っぴらに他の種族、他の町と交流していこうって決めたんだよぉ。隠れ里も改名して≪フェニックスの里≫にしようって。みんなキノコや薬を村の名産として≪フェニックス印≫のブランドで堂々と売り出そうってねぇ♪ 大丈夫、きっとみんなも応援してくれるよぉ~」
「うん! それ、すっごい素敵なアイディアだよね♪ クルルも戻ったら、村のみんなにいっぱい宣伝するよ!」
「ま、薬ニャら粗利がいいから財政的にも困らニャイでしょうね」
ミオも、彼女にしては珍しく肯定的な評価をする。
「ねぇ? そしてぇ、あたしの役目は、キマイラ様と直談判すること……。もちろんジュディを助けるのが最優先事項だけど、それが叶えられたら、お願いするのぉ。あたしたち妖精にも自由な生き方を認めて欲しいって……神鳥様がいた頃のようにぃ……」
「マーヤちゃん……一緒に頑張ろう! 私も頼んであげるから」
「ありがとう、千里ぉ♪」
それから、心の迷いのすっかり晴れた笑顔で、朋也を振り返る。
「さあ、朋也ぁ! Let's goよぉ!!」
こうして旅の一行は、マーヤの仲間たちに見送られ、隠れ里改めフェニックスの里を後にしたのだった──