「ご協力ありがとニャ♪ おかげでたっぷり楽しめたわ」
「なに、君の頼みとあらばお安い御用さ♪ ところで、約束のデートの日取りだけど──」
ホテルの噴水の前でミオと会話しているのは例のネコ族の男だった。
「そうねぇ……じゃ、10日後の夜10時に北の霊園の入口で待ち合わせにしましょ」
「えっ、10日も待つのかい!? それに、何でお墓なの?」
「待ち遠しい気分を10日も味わえるんだからいいじゃニャイ♪ それに、デートスポットといえばやっぱり墓場でしょ? 男だったらやっぱり、かよわいレディの前で頼りにニャるところを示したいって思うもんじゃニャくて?♥」
「そ、そうだね。や~、10日後が楽しみだなァ♪」
男は浮かれ気分で去っていった。
「べー」
と、そこへ、エメラルド号のエンジン音が聞こえてきた。さあ、何気ニャくいかにもびっくりニャふうを装わニャくっちゃニャ~♪
朋也がシエナに戻ってきたのは正午前だった。救出作業を中途で打ち切ったのは何故かというと、重大な知見を見落としていたのに気づいたからだ。
インレに通じる山道の雪の上には、ルビー号の轍の跡もミオの足跡も付いてはいなかった。要するに、彼女はこんな場所に訪れてなどいなかったことになる。時すでに遅しで、雪壁を2メートルほど掘り進み、両の手指は霜焼けで真っ赤に腫れ上がっていたけれど……。
ホテルの前にたどり着き、朦朧としつつエメラルド号から降りる。噴水の前にもどこにも件のネコ族の姿は見当たらない。あんにゃろ~、次に会ったときはギャフンと言わしてやるからな!?
ミオはフロントの前にいた。朋也の姿を認めて、びっくりした顔で駆け寄ってくる。
「朋也! あんた、夕べどこうろついてたのよ!? みんニャして捜し回ってたんだから!」
「ミオか……。まあ、無事だったんならいいや……」
「どうしたの? 疲れた顔して。目の下にクマができてるわよ? ひょっとして、1晩中ガールハントでもしてたんじゃニャイでしょうね~?」
疑るように彼の顔をのぞき込む。
ガールハントか……まあ、本命1人を1晩中追っかけ回していたわけだから、あながち間違いじゃないかもしれないな……。
「イゾルデの塔に行って、ウーのピラミッドに行って、その後インレの手前まで行ってきたのさ」
「インレ~!? あんた、寝惚けてニャイ?」
「それより、お前は夕べはどこ行ってたの?」
「あたい? ちょっとその辺に散歩には行ってたけど、早めに切り上げたわよ? おかげで夕べはたっぷり眠れたし、今朝のあたいは気分爽快ニャ♪」
「そうなんだ……」
すでに朋也は何を聞いても無反応状態に陥っていた。
「俺、ちょっと一眠りしてくるわ……」
そう言うと、夢遊病者のような足取りで自室に引き上げていく。
彼の背中に向かって、ミオは投げキッスを送った。
「朋也……あたい、あんたといるとホント退屈しニャイから好きよ♥」