「う~ん……えっと、途中で顔を見に来るのは駄目かな?」
「悪いけど、この期間は私とマンツーマンで修行に集中して欲しいの」
「……」
朋也は腕組みして考え込んだ。イヴが信用できないってわけじゃないし、こんなにすごい魔術師の師匠が手取り足取りで指南してくれるとなれば本人も乗り気だろうが、幽霊の巣食う塔に彼女を1人残していくのはどうにも気が引ける。ジュディだってそばにいないし。俺はともかく……いや、本当は──
「好きな人を1人で残していくのは気がかりですか? 彼女の顔を9日も見られなくなるのは寂しいという気持ちはわかるけど……」
「べ、別にそういうわけじゃないけど……」
あわてて否定する。
「大丈夫よ、朋也。私、自分の力でどこまでやれるか試してみたいの! だから、心配しないで……。ポートグレーに出発する日の朝になったら迎えに来てよ。ね?」
彼女の前向きな表情を見ていると、わがままばかりは言えないと自分を納得させ、同意を示すことにした。まあ、イヴもついててくれるんだから、そんなに心配は要らないよな?
「……そうか。千里がそこまで言うなら……。くれぐれも無理はするなよ?」
「うん ありがと……」
見つめ合う2人の顔を交互に見やりながら、イヴが目を細めて言った。
「……フフフ、2人を見ていたら、若かりし日の自分を思い出してしまったわ。ちょっとジェラシーを感じてしまうわね。さあ、朋也、後のことは私に任せて。彼女に過度の負担がかからないよう、私がきっちりサポートしますから」
「わかりました。それじゃお願いします。じゃあ、千里、また迎えに来るからな」
「ええ。期待して待ってて」
手を振る2人を屋上に残し、階段に足をかけた途端、朋也はうんざりする思いに駆られた。これからこの階段、40階降りなきゃならないのか……(T_T)