朋也は運転席にまたがるとエンジンをかけた。フィルもサイドカーに乗ろうと歩いてきたが、途中でフラッと倒れこみ膝をついてしまう。
「！！　ど、どうしたの、フィル！？」
　あわててエメラルド号から降りると、フィルのそばに駆け寄る。顔色を見ると、かなり真っ青だ。もともと緑がかってるからすぐには違いがわからなかったけど……。
「フィル、もしかして具合悪いの？」
「……すみません……私、夜間は少々苦手なもので。今はクレメインからのサポートもないものですから……」
　しまった、早く気づいてあげればよかった。フィルは樹の精なんだから、もともと光のない夜の行動には向かないんだよな。それに、地面に近いサイドカーに長時間座ってればそれだけでも腰にきて当然だし。
「ごめんよ、フィル。気づくのが遅くて……。よし、今夜はどっか近くに泊まれそうなところを探して休憩にしよう！」
「でも……」
　躊躇するフィルに、朋也はきっぱりと首を振って言った。
「そんなフラフラの状態で行ったって、アリを追っ払うどころか逆に追い払われちゃうよ。なに、連中だって二四時間営業なわけじゃなし、まだ間に合うさ。ともかく少し休んだ方がいい」
「すみません……」
　少しホッとした様子で頭を下げる。
　峠のてっぺん付近では休める場所がなさそうだったので、もうちょっとだけ彼女には我慢してもらい、沢のそばに疎らに木の生えた場所を見つける。林とさえ呼べず、当然森の精はいなかったが、フィルの身体にとってはだいぶ楽なはずだ。
　フィルがモンスター除けの簡易結界を張っている間、朋也は焚木になる枯れ枝を集めてきた。フィルは高い魔力を持っていたものの、ルビーを使用できなかったのだ。朋也はもちろん、魔力が低いうえに使えない……。
　シエナで手に入れてあった火打石（P.E.のおかげで使い勝手は１００円ライターに負けない）を使い火をつける。燃料にも使った鉱石を一緒にくべておく。そうすれば、薪は少なくて済むしおき火も長持ちするのだ。焚き火を焚いたのは、火自体にモンスターを追い払う効果があるし、寝袋を積んでなかったこともある。それにフィルも、樹の精の姿の彼女は生理的に他の成熟形態の動物種族とほとんど違わず、睡眠や暖をとる必要があったのだ。光合成やワープもできたりするけど……。
　準備がすっかり整うと、焚き火の残量を確認し、鉱石の量を調節する。これで朝まで何とかもつだろう。エメラルド号を風除けにし、頭を向け合い横になると、２人は眠りに就いた。