砂漠のピラミッドでイヌ族の守護神ウーとまみえた夜、朋也とジュディがエメラルド号でダリに戻ってきたときには、もう東の空が白みかけていた。2人ともどっぷり疲れ果て、足元もフラフラだったが、心は晴れやかだった。ウー神の授けものであるマスチフメイルを身に付けた朋也が街に入場するのを、門番のイヌ族は止め立てすることさえしなかった。ピラミッドの謎に挑戦し、見事それを解き明かした若い2人の前に集まってきた村人たちは、朝日を受けて神々しく輝く最強の鎧を身に纏った朋也を、目を丸くしながら声もなく見つめるばかりだった。
ルドルフ爺が現れ、ジュディと抱擁を交わす。前の晩、石を投げ、罵声を浴びせた人々は、1人また1人と2人に握手を求めてきて、口々に「おめでとう」と祝福の言葉をかけてくれた。そのまま村人たちにせっつかれるようにして、ダリの大通りを凱旋行進する。ジュディはサービスでドーベルソードとバーナードの盾を皆に好きなようにいじらせてやった。朋也は尻尾を振り振り寄ってくる女の子たちの握手攻勢に閉口させられた……。もう勘弁してもらって早く宿のベッドに潜りたかったんだけど。
〝伝説の剣士〟カムロの家の前を通りかかったとき、チラッと目に入ってきた扉の張り紙には、≪修行の旅に出ます≫と書かれていた……。
お祭り騒ぎが一段落すると、ミオたちを心配させるといけないので、朋也たちは眠気をこらえてシエナに戻った。3人はホテルの前で待っていた。マーヤとクルルは2人が謝ると笑って許してくれたが、ミオはかなりお冠で最後まで許してくれなかった。自分だって夜歩きしてたくせに。まあ、ほとぼりが冷めるのを待つしかないか……。
部屋に戻ってそのままベッドにばったり倒れ込む。夕方頃に目が覚めてみると、なんとマスチフメイルがなくなっていた。あんまりくたびれてたので着替えもせずに寝入ってしまったんだが……。まさか、ミオのやつが腹いせに質屋にでも持ってったんじゃないだろうな!?
あわててジュディを探し出してことの顛末を話すと、彼女は鼻をクンクン言わせ、笑いながら言った。
「大丈夫、まだ着たままだよ♪」
どうやら、神獣の手になるアイテムだけに、特殊なP.E.が働いて朋也の制服と同化してしまったらしい。セイ○トクロスみたいでちょっとカッコいいかなと思ってたのに、残念。
いよいよレゴラスへの出港前日、港町ポートグレーに出発する日がやってきた。すでに装備やアイテムなど必要な品はシエナの街で買いそろえてある。準備は万端だった。
5人はオーギュスト博士の遺産である3台の乗物の前に集まった。
「さて、どういう割り振りで分乗するの? リーダーが決めてちょうだい」
ミオが朋也に促す。
3人乗りのサファイアの片側の座席に荷物を載せることは決まっていたので、サファイア2、エメラルド2、ルビー1の配分になるが……。朋也はエメラルド号のサドルにポンと手を置いた。あの晩以来、こいつに一番愛着を抱くようになっちゃったからなあ。
「ジュディ」
サイドカーを指差しながら名前を呼ぶ。
ジュディはちょっぴり照れたように頬を指で掻きながら、遠慮するようにミオの顔をうかがった。ミオはお好きなようにというように肩をすくめると、プイとそっぽを向く。
「まったく……あたいよりバカイヌのほうがいいニャンて信じられニャイニャ!」
「後はミオがルビー、クルルがサファイアでマーヤを乗っけてもらうのでいいかい?」
「了解」
あきらめ顔でしょうがないと両手を挙げる。
「OK!」
5人はそれぞれ決められた座席に着いた。
「よし、それじゃポートグレーに向けて出発っ!!」