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 自由を求めて妖精の国フューリーに直訴に行ったはずが、最も自由のない妖精長のポストを無理やり与えられてしまったマーヤは、困惑の色を隠せなかった。それはもちろん朋也とて同じだった。
 指示を仰ぐSクラス妖精たちに、マーヤはまず「命令することなんてないからみんな好きにしていい」と言ったが、それは死ねと言われるようなものだと聞き入れられなかった。確かに、数百年1つの業務を生業としてきた彼女たちに、これまでの慣習をすべて放棄しろと要求するのは無体な話だし、エデンに混乱を招くのも避けられないだろう。また、彼女たちはキマイラにも忠義立てしているようだった。
 マーヤは仕方なく、従来の運用を継続しながらも、ガチガチに固められたシステムを融通の利く〝ルーズなシステム〟に変える仕組みを考案するよう、幹部たちに指示を出した。
 それ以外は命令らしい命令は何も出さなかったが、ただ1つ、マーヤが妖精長の権限を明確に行使したことがあった。それは全妖精に対し以下の通達を出すことだった。すなわち、「各自番号で呼ぶのをやめ、自分の名前を持つこと」──。
 Sクラスたちは一意性が損なわれる、システムの変更コストがバカにならない等々とごねたが、彼女は突っぱねた。本当は、すべての妖精に他の種族と同等の自由と権利を認めさせたいところだったろうが、後はキマイラと交渉して勝ち取るしかなさそうだった。
 フューリーの中にいたので時間の感覚がなくなっていたが、地上に戻るともう夜が明けようとしていた。ミオたちが起き出す前に部屋に戻るつもりだったが、ホテルの前に着くと3人とも玄関口に立っていた。
 エメラルド号からフワリと降り立ったマーヤの姿を見て、みんな口をあんぐり開け目を丸くする。そりゃ、身長が一気に倍近くなったら、驚かないのが無理ってもんだよな……。朋也は彼女たちにフューリーでの出来事を掻い摘んで説明した。
 口には出さなかったが、みな2人の関係をそれとなく察したようだ。ミオは、「こんニャの反則だニャ! やっぱあのときカツブシまぶして天ぷらにしとけばよかった(T_T)」とかわけわからんことをブツブツ呟いてたけど……。

 いよいよレゴラスへの出港前日、港町ポートグレーに出発する日がやってきた。すでに装備やアイテムなど必要な品はシエナの街で買いそろえてある。準備は万端だった。
 5人はオーギュスト博士の遺産である3台の乗物の前に集まった。
「さて、どういう割り振りで分乗するの? リーダーが決めてちょうだい」
 ミオが朋也に促す。
 3人乗りのサファイアの片側の座席に荷物を載せることは決まっていたので、サファイア2、エメラルド2、ルビー1の配分になるが……。朋也はエメラルド号のサドルにポンと手を置いた。あの晩以来、こいつに一番愛着を抱くようになっちゃったからなあ。
「マーヤ」
 サイドカーを指差しながら名前を呼ぶ。
 指名を受けたマーヤは嬉しそうに微笑むと、フワリと座席の上に飛び乗った。羽がちょっと窮屈そうだったけど。それを見ていたミオがため息を吐いて肩をすくめる。
「お好きニャよーに」
「後はミオがルビー、ジュディがサファイアでクルルを乗っけてもらうのでいいかい?」
「了解」
「OK!」
 各自座席に着いたのを確認すると、朋也は号令を発した。
「よし、それじゃポートグレーに向けて出発っ!!」


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