永年雪に閉ざされていた北方の山村からユフラファに帰還した朋也とクルルは、早速ラディッシュおばさんと村長夫人に報告に行った。巨大生物ウーマルを懲らしめ、インレへの通行が可能になったこと。村には長老ヘイズルや行方不明だった老拳闘家スライリをはじめ大勢のウサギ族が生き残っていたこと。占い師ファイバーに一族の守護神エルの力を分けてもらったこと、などなど。
	 クルルのニュースに村人たちはみな目を丸くし、感嘆の声を上げた。村長夫人は2人の無事を祝うとともに、哀しみに包まれていた村に明るい報せをもたらしてくれたと謝辞を述べた。それから、ゲドたち3人組に、若い女の子を何人か連れてインレの支援に行ってもらえるように頼んだ。
	 続いて朋也たちはビスタに向かった。その足で妖精の運営する難民救護センターに赴き、インレの状況を伝える。妖精の1人は朋也の顔を覚えていて、サポートを検討すると請け合ってくれた。
	 今はここまでが精一杯だ。ウサギ族の2つの集落が置かれた困難な状況に変わりはないが、みんなの手助けがあれば決して乗り越えられない障害ではないだろう。2人はユフラファにもう1泊すると、おばさんやゲドたちに再度別れを告げてシエナに引き上げた。
	 クルルと2人きりの3泊旅行から戻ってみると、他の女の子たちがホテルの前で恐い顔をして待ち構えていた……。
	「朋也ッ! あんた、ジュディが大変な目に遭ってるってのに、2人で雪山に旅行なんていい気なもんね!?」
	 千里が腰に手を当てて詰め寄る。
	「ホント、信じらんニャイ!」
	 ミオも珍しく彼女に同調。
	 朋也はあたふたしながらインレでの出来事を説明した。当然、自分がクルルにプロポーズしかけたことなんて口が裂けても言えなかったけど……。
	「ふ~ん……」
	 千里の目つきはまだ半信半疑だ。
	「クルルちゃんの手紙には〝お婿さんを探しに行く〟ってあったけど、どういう意味? クルルちゃんの?」
	「ううん、違うよ。ユフラファのみんなのためだよ。村に男の人がいなくなっちゃったからさ、インレになら同族の男の人もいると思ったんだ」
	「何だ、てっきり自分のお婿探しでもするのかと思っちゃった」
	「ジュディが大変なときにそれはできないよ。それに、朋也がクルルに結婚して欲しくないって──フガ」
	 あわてて彼女の口を押さえる。だから、言っちゃ駄目だっていうのに……。
	 翌朝、ミオが忽然と姿を消した。朋也の枕元に書置きを残して。
	〝インレにお婿さんを捜しに行くニャ♥〟
	 ハァ、仕方ない……。彼はエメラルド号を引っ張り出すとインレに向かった。
	 村に入ると、再び歓待を受ける。クルルがいないのでじいさん連中はつまらなそうだったけど。ネコ族の女の子が来なかったか尋ねるが、誰も見ていないとのことだった。一杯食わされたか。何となくそんな気はしてたんだけど……。
	 せっかくなので、村に入っていたブブたちを手伝ったり、スライリと腕相撲をしたりして(一勝もできんかった)時間を潰し、1泊させてもらってからシエナに取って返す。案の定、ミオはヘトヘトになって帰ってきた朋也をニヤニヤしながら出迎えた。
	「あ~、すっきりしたニャ♪」
	
	 いよいよレゴラスへの出港前日、港町ポートグレーに出発する日がやってきた。すでに装備やアイテムなど必要な品はシエナの街で買いそろえてある。準備は万端だった。
	 5人はオーギュスト博士の遺産である3台の乗物の前に集まった。
	「さて、どういう割り振りで分乗するの? リーダーが決めてちょうだい」
	 ミオが朋也に促す。
	 3人乗りのサファイアの片側の座席に荷物を載せることは決まっていたので、サファイア2、エメラルド2、ルビー1の配分になるが……。朋也はエメラルド号のサドルにポンと手を置いた。あの晩以来、こいつに一番愛着を抱くようになっちゃったからなあ。
	「クルル」
	 サイドカーを指差しながら名前を呼ぶ。
	「うん♪」
	 指名を受けたクルルは大きな前歯を見せて嬉しそうに笑うと、座席の上にピョンと飛び乗った。
	「クルルに負けちゃった」
	 千里がため息を吐く。
	「お好きニャよーに」
	 ミオも肩をすくめる。
	「後はミオがルビー、千里がサファイアでフィルを乗っけてもらうのでいいかい?」
	「了解。千里、あんたに乗りまわせるの? 砂の山に突っ込んで足引っ張んニャイでよね?」
	「あらミオちゃん、そんなに私の華麗なドライビングテクニックが見たいの?」
	 ケンカは着いてからやってくれ……。乗客もいるのに。
	 各自座席に着いたのを確認すると、朋也は号令を発した。
	「よし、それじゃポートグレーに向けて出発っ!!」