いよいよレゴラスへの出港前日、港町ポートグレーに出発する日がやってきた。すでに装備やアイテムなど必要な品はシエナの街で買いそろえてある。準備は万端だった。
あの日以来、みんなのフィルを見る目が変わった。森の樹の精という特殊な立場にある彼女に対しては、みんな無意識のうちに一定の距離を置いていたのだが、それが〝恋人宣言〟のおかげで解消したようだ。千里は女の嗜みを教育してあげるなんて言い出すし(彼女じゃ余計心配なんだが……)、クルルもフィルに無理やりビスケットの作り方を伝授しだす始末だ(朋也は呼ばれて成果物の賞味係を担当させられたが、フィルの作ったほうが断然うまかった……)。ミオは「樹の精のくせしてタラシだニャ~」とか言ってさんざんに貶してたけど……。
神木からもらった杖の威力には目を見張るものがあった。なんと、この杖を所持したおかげで、朋也は樹海嘯を含めた樹族の特殊スキルをすべて行使できるようになったのだ。そのうえ〝光合成〟──といっても本物の光合成のことではなく、戦闘時にターンごとに自動的に一定量体力が回復するという実に重宝な樹族のスキルのことだが。ちなみに、フィルは髪の毛で文字通りの光合成をしている──の能力まで備わるオマケ付きだ。召喚魔法を得たことも加え、朋也の戦力は一気に倍増した。アリ退治ではひどい目にあったけど、これで十分に報われたな。
5人はオーギュスト博士の遺産である3台の乗物の前に集まった。
「さて、どういう割り振りで分乗するの? リーダーが決めてちょうだい」
ミオが朋也に促す。
3人乗りのサファイアの片側の座席に荷物を載せることは決まっていたので、サファイア2、エメラルド2、ルビー1の配分になるが……。朋也はエメラルド号のサドルにポンと手を置いた。あの晩以来、こいつに一番愛着を抱くようになっちゃったからなあ。
「フィル」
サイドカーを指差しながら名前を呼ぶ。
「ええと……わ、私ですか?」
朋也がもう一度ニコニコしながらうなずくと、彼女も微笑み返した。残りの女の子を恐縮そうに見回して会釈すると、モジモジしながらシートに腰掛ける。
「フィルに負けちゃった」
千里がため息を吐く。
「お好きニャよーに」
ミオも肩をすくめる。
「後はミオがルビー、クルルがサファイアで千里を乗っけてもらうのでいいかい?」
「了解」
「OK!」
各自座席に着いたのを確認すると、朋也は号令を発した。
「よし、それじゃポートグレーに向けて出発っ!!」