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 いよいよレゴラスへの出港前日、港町ポートグレーに出発する日がやってきた。すでに装備やアイテムなど必要な品はシエナの街で買いそろえてある。準備は万端だった。
 この9日間というもの、朋也はパーティーの仲間たちと砂漠のモンスターを相手にしたりして特訓に励んだ。実戦演習以外にも、千里やミオの魔法の訓練でサンドバック役を買って出ることに。仕方ないよな、2人がやりたいっていうんだから……。おかげで、打たれ強くはなったかもしれない。
 もっとも、攻撃に関しては相変わらず傘を振り回すくらいしか能がなかった。魔法も唱えられず、スキルもほとんど身に付いていない。朋也の場合なぜかネコ族、イヌ族、ウサギ族、ヒト族、etc.といろんな種族のスキルを満遍なく持っていたが、どれも中途半端で大して役に立たなかった。別に、意中の彼女がいないとか、八方美人に付き合ってたとか、そんな理由でスキルが伸びないということはないはずだ。たぶん……。ともあれこの分じゃ、盾役としてしか活躍の場がなさそうだった。
 スキル不足もさることながら、装備が傘しかないのも問題だった。他のメンバーに剣や爪や銃を借りて試してみたが、いずれも能力を十分に引き出せない。モノスフィアから持ち込んだ折り畳み傘は、P.E.のおかげでかなり鍛えられたものの、所詮傘は傘だ。果たして雨が降ったときに使い物になるのかというのも心配だったけど……。
 あるとき、シエナの裏通りの武具屋で、〝絶対折れない傘〟という能書きのついた傘を見つける。カーボナノチューブ製で、魔法防御力を高める効果もあるらしい。まさに今の俺にはぴったりのアイテムだな♪
 問題は値段だった。かなり目の玉が飛び出る金額だ……。財布を握っていたミオに相談してみる。
「──というわけで、このとおり! 元がとれるくらい活躍してみせるからさ♪」
「ふみゅ~……ホイホイ買い与えられる額じゃニャイわねえ……。どうする千里?」
 そう言いながら千里に振る。主従がすっかり逆転してるなあ。
「そうねえ……。そこまで言うなら、決意のほどを見せてもらおっか」
 というわけで、朋也は彼女の最強魔法ジェネシスの実験台をやらされることになった。ほとんど使う機会がなくて調整できないというのがその理由だ。自分をいたぶって楽しむ口実──じゃないよな?
「ダイヤ持ってちゃ駄目?」
「駄目よ、もったいニャイ。あれは本戦で使うんだからね」
 ……。仕方ない、覚悟を決めよう。これも傘のためだ。ていうか、傘1本入手するのになんで俺こんな目に遭わされなきゃなんないの!? やっぱりやめ──
「行くわよ!? ジェネシスッ!!!」
 なんでこんなに間が悪いんだろう? 3原色の光が襲いかかる。そして──
 その後、部屋のベッドで寝かされた状態で目が覚めるまでの記憶はとんでいた……。しかも、起き上がることもままならない。
 顔を横に向けて枕もとを見ると、半透明の傘が立てかけてあるのが目に入った。ミオたちが買ってきてくれたんだろう。ついに手に入れたぞ! ありがとう、みんな──と傘1本で感激してる自分が虚しかった……。

 5人はオーギュスト博士の遺産である3台の乗物の前に集まった。
「さて、どういう割り振りで分乗するの? リーダーが決めてちょうだい」
 ミオが朋也に促す。
 3人乗りのサファイアの片側の座席に荷物を載せることは決まっていたので、サファイア2、エメラルド2、ルビー1の配分になるが……。朋也はエメラルド号のサドルにポンと手を置いた。
「誰か隣に乗りたいひと♪」
 ……。誰も手を挙げてくれない。
「……あんたはルビーにしたら?」
「そうそう。私はエメラルド号でミオちゃんに乗せてもらうから。マーヤちゃんはクルルちゃんとでいいわね?」
 千里がさっさと決めてしまう。俺に任せるって言ったくせに。
 各自座席に着いたのを確認すると、朋也は号令を発しようとした。
「じゃあみんな、ポートグレーに向けてしゅっぱーつっ♪」
 クルルに横取りされる。リーダー出番なし……。肩書だけなのね(T_T)


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