キマイラたちが要求しているのは千里の身柄だ。だとすれば、おそらくリルケの狙いは、ここでこっちの戦力を分断して千里の拘束を容易にすることだろう。要するに、ジュディを返すつもりも、話し合いに応じるつもりもないに違いない。邪魔な取り巻きがいなければ、事はスムーズに運ぶ。とりわけ、朋也の存在が欠けるのは彼らの思う壺というわけだ。
ミオの言うとおり、リルケのことだから本当に子供の命を奪うつもりはないはずだ。無関係の妖精を助けるために三獣使にさえ剣を振るう彼女に、そんな真似ができるわけがない……。罠だとわかっている以上、やっぱりジュディと千里を優先するしかないよな──
朋也はお魚ちゃんに深々と頭を下げた。
「すまない……俺たちはどうしてもレゴラスへ行かなくちゃならない。俺たちの大切な仲間が人質にされてるんだ。あいつは……リルケは、君の坊やに危害を加えるような真似は絶対しないよ。俺たちがその手に乗らなければ、あきらめて連れて戻ってくるから。俺が保証──」
そこまで言いかけたとき、ネコ族の旦那のほうが朋也に殴りかかってきた。ミオたちが止めに入ろうとするのを制し、彼の好きなようにさせておく。後で魔法で回復してもらえればいいからな……。それに、腕力を振るう仕事には縁がないらしく、ミオやクルルほどにもこたえない。むしろ、彼の憎しみ、お魚ちゃんの絶望、周囲の人々の侮蔑のこもった視線のほうが朋也には痛かった……。
気の済むまで殴った後、ネコ族の男はお魚ちゃんと抱き合うようにして家に引き揚げていった。周りの群集も散ってから、朋也はミオたちに支えられるようにして船着場に向かった。
リルケのやつめ、この借りはきっちり倍にして返してやるからな!
汽笛とともに、船はレゴラスに向けて出航した──