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ミオ: ---
* ベストエンド不可

 死んだ恋人の横顔を見つめながら、まだ体温の残るビロードのようなグレーの毛皮をなで続けるミオの前で、朋也も無言で頭を垂れた。じっと見ているうちに目頭が熱くなってくる。本当にひどいやつだった。トラやベスを騙して陥れ、罪のないウサギたちの命まで奪ったうえに、神獣を殺して世界を乗っ取ろうとまで企てた──自分の惚れたたった1人の女のために。これがニンゲンの2枚目の恋敵だったら、ざまあみろで済んだろう。
 それでも、いま目の前に横たわる亡骸は自分の知っているあのカイトだった。常に距離を置き、決して親しい素振りを見せることのなかった、そんな一匹狼の彼の姿を見かけると、ちょっぴり得したような気持ちになれたものだった。そのカイトも、二度と戻ることのない世界に旅立ってしまった……トラやベスやリルケと同じように。愛する人の手にかかって本望、か……。奇麗な死に顔は、それがカイトの本心だった証なのかもしれないが……本当にお前はそれでよかったのか? 朋也は自分でも理不尽な思いに駆られて、ついミオに怒鳴ってしまった。
「どうして……どうしてカイトを殺したんだ!?」
 ミオはきっと朋也のほうを振り向くと、今まで見せたこともないような鋭い目つきでにらみつけた。
「どうして、ですって? そんニャこともわかんニャイの? あんたが弱いからでしょ!? あのままほっといたら、カイトは間違いニャくあんたを殺してたわ。だから……だから、どっちか選ばニャくちゃニャらニャかったんじゃニャイの!!」
 ……。バカなことを言ったな。彼女にとっては死ぬほど辛い選択だったに違いないのに……。
「ごめん、ミオ……お前の言うとおりだな……」
 彼女は彼を腕に抱いたまま徐に立ち上がると、厳しい目で朋也の顔を見据えた。
「いい、朋也? あんたにはもっと、もっと強くニャッてもらわニャくちゃニャらニャイわ……でニャきゃ、キマイラにニャンか勝てっこニャイ……」
 そのままカイトの亡骸を抱いて広場を引き返していく。一行も後に従った。花畑に穴を掘り、リルケの亡骸とともに並べてそっと土をかぶせる。5人は静かに手を合わせて2人の冥福を祈った。
 ネコに、カラスに、イヌに、ヒトに、死後の世界というものがあるのかどうか、朋也にはわからなかった。でも、もしあるとすれば……どの種族だろうと、前駆形態だろうと成熟形態だろうと、どちらの世界の出身だろうと、きっとみんな同じところへ行くんだろうな……。
「行きましょう、千里のところへ……キマイラはこの向こうよ」
 思いを断ち切るかのように、ミオは進んで神殿の中に入っていった。朋也たちは彼女の後に続いた──


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