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リルケ: ---
* ベストエンド不可

 朋也は気を失っているリルケの前で拳を握り締めた。
「わかった。ジュディの命には代えられないもんな……。でも、頼むから、応急の治療だけはしてやってくれないか?」
 千里は黙ってうなずくと、クリスタルを唱えようとした。ミオがそれを押し留める。
「あんたのMPを無駄に使いたくニャイわ……」
 代わりに自分が毛づくろいをリルケに施す。意識は戻らなかったが、顔色はだいぶよくなったようだ。少なくとも、命に別状はないだろう。
 朋也は静かに彼女を横たえると、後ろ髪を引かれる思いでその場を離れた。頼むリルケ、無事でいてくれよ……カイトと話をつけたら、すぐに戻ってくるから。
 5人は階段の先の広場を走りぬけ、荘厳な伽藍の正面にある大きな扉の前までやってきた。向こうにキマイラの部下がズラリと待ち構えていたりしてな……。意を決して取っ手に手をかけようとしたときだった。
「ようこそ、レゴラスの神殿へ」
 カイトの声だ。ハッとして上を仰ぐ。5階建てほどの高さのある神殿のてっぺんに立ってこっちをじっと見下ろすネコ族のシルエットが目に入る。折しも、東の水平線から昇ってきた朝日が彼の雄姿をまぶしく照らし出す。朝日を浴びて真っ赤なマントが鮮やかに翻った。あんにゃろ~、こういう登場の仕方をしないと気がすまないらしいな……。
 彼は扉から離れて身構えた朋也の前に、ひらりと一跳びで着地した。
「約束どおりに来たわよ! さあ、ジュディを返してちょうだい!!」
 千里が前に進み出て毅然として要求する。
「まあ、そうあわてることはない。皆既日蝕が始まる時刻までにはまだ間があるからね……」
 いつもの調子で答えをはぐらかそうとする。
「カイト、教えてくれ! やっぱり君はキマイラの命令で動いているのか? 千里を一体どうするつもりなんだ? これまでのことはすべてキマイラが仕組んだことなのか!?」
「詳しいことが知りたければ、僕よりそこの妖精君に訊いた方が早いんじゃないかな?」
 そう言ってマーヤを指差す。
「何よぉ、あたしを悪者にするつもりぃ!? あたしはあなたと違って裏の事情は何も聞かされてないんですからねぇ~! 朋也たちのそばにいて状況を報告しろって言われただけだもぉん。どのみち神獣様の家来はもう辞めたけどぉ……」
 彼に向かってあかんべえをする。
「おやおや……ネコばかりでなく神獣の妖精まで手なずけてしまうとは、まったく君という奴は侮れないな……」
 そう言って肩をすくめると、カイトは話を続けた。
「じゃあ、僕が残りの真相も含めて補足してあげよう。オルドロイの一件も、裏で動いていたのはキマイラだ。ニンゲンの女性を生贄に捧げれば紅玉とフェニックスを復活させられるとベスに吹き込んだのは、他でもないこの僕さ」
 カイトはすました顔で事件の真相を詳らかにしてみせた。大方のところは想像がついていたが、これでトラもベスも利用されていただけだったという事実がはっきりしたわけだ。
「それじゃあ……村のみんなを皆殺しにしたのも、全部あなたの──!」
 クルルが今までになく激しい怒りの感情を露にした。そこで彼の目つきがにわかに鋭くなる。
「……ウサギ族のお嬢さん。僕だって徒に血を流すことを好むわけじゃない。それは神獣とて同じこと。人柱は本当に必要だったんだ。ゾンビと化したフェニックスに霊力を取り戻させる手段は他になかったのだから……。君は恨むべき相手を間違えているね。慈愛にあふれた穢れなき神鳥を、命を貪るおぞましいバケモノに変えてしまったのは、ヒト族じゃないのかい?」
「確かに悪いのはニンゲンかもしれないけど、朋也や千里には何の罪もないじゃない! これ以上ひどいことするのはやめてよっ!!」
「そういうわけにもいかないのさ。千里君に協力してもらわないことにはすべてが始まらない。紅玉の再生がかかってるんでね……」
「何だって!? でも、ベスは千里をオルドロイで生贄に捧げようとしたけど、ルビーのアニムスを復活させることなんてできなかったじゃないか!?」
「そりゃそうさ。我々の力でアニムスを再生させることなんて出来るわけがない。そいつが可能なのは神獣だけだ。ただし、紅玉の封印を解いた種族、それも神鳥の霊光を浴びた〝鍵〟である彼女がアイテムとして欠かせないがね……」
 そういうことか……カイトとリルケが手の混んだ真似をしてわざわざオルドロイの一件を仕組んだのも、すべて本番前の下準備に過ぎなかったというわけだ……。
「カイト! 俺、トラに約束したんだ……。誰かを犠牲にするような、誰かが不幸になるようなやり方は絶対間違ってるし、他に方法があるはずだ! だから、そんなやり方はやめさせるし、代わりの方法をきっと見つけてみせるって……。頼むから考え直してくれないか?」
 朋也は必死になって懇願したが、カイトはうんざりしたように首を振った。
「僕はヒト族としては君を高く評価しているつもりだが……神獣をさし措いて世界を救ってもらうことまではとてもあてにできないよ。実を言うと、今回の皆既日蝕は特別でね。アニムスを復活させるのに必要な月蝕と日蝕が連続して起こる機会というのは、今日を逃すとあと100年は訪れないんだ。それまでエデンがもつと思うのかい?」
 そう言われてしまうと、反論の余地がなくなっちゃうな……。今までずっと黙っていたミオがそこで口を開いた。
「……カイト、さっきから聞いてると、あんたすっかりキマイラの代弁者気取りね。あたいの知ってるカイトは、他人に尻尾を振ってついてくようニャタイプじゃニャかったわよ? いつから神獣のイヌに成り下がったの?」
 カイトはしばらく恋人の目を見つめていたが、眉間に人差し指を当てるいつもの気障な笑みを浮かべて言った。
「フッ。ミオ、やっぱり君の目を欺くことはできないね……。もちろん、察してのとおり、これまでの話は全部キマイラの受け売りで、僕の考えじゃない。彼の忠実な下僕のふりをするのも、ルビーのアニムスを取り戻すまでの間だけさ。その後は──」
 彼はそこで神殿に振り仰ぐと、両腕を広げた。
「キマイラを倒し、ルビーとエメラルド、二つのアニムスを我がものとする!!」


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