リルケの羽はさらに輝きを増す。驚く朋也の頭上で、翼を羽ばたかせる音とともに風が舞い、影が差した。
振り仰ぐと、そこに大きな翼を広げ、全身黒い羽毛で身を包んだ鳥頭の女性の姿があった。ポカンとして見つめる朋也をじっと見返す。
≪わらわはカラス族の神鳥ピリカ=ラーベン。翼持つ者の友よ。我が羽と嘴にかけて、汝に我が加護を授けよう──≫
神鳥ピリカは朋也に向かって悪戯っぽくウインクを投げかけると、彼の頭上に舞い降り、ふっと姿を消した。足元からつむじ風が巻き起こる。
すると不思議なことに、全身から力が湧き上がってくるのを感じた。まさに比喩のとおり、身体が羽のように軽くなる。さっきまでの消耗が嘘のようだ。
「う……一体何が起こって……」
「あっ、朋也! 来てくれたの!?」
ピリカはパーティーの仲間たちの体力まで回復してくれたようだ。
「ふん、どうやらカラス族の神鳥の加護が発動したみたいだね。本来、神獣や神鳥との守護契約は一族の者しか結べないはずなんだが……。これもあの女の手引きかい? やっぱりもっと早く始末すべきだったよ」
カイトが朋也を苦々しげににらみながら口にする。
「リルケを傷めつけたのが仇となったな、カイト。俺たちを相手に連戦はきついだろ。もう観念してそこをどくんだ! 話だったら後でいくらでも聞いてやる」
「おやおや、もう勝った気でいるみたいだが、そう簡単にいくかな? あいにくだが、僕もネコ族の神獣バステッドと契約済みなんだよ。朋也、今度こそ決着を着けようじゃないか!!」
再びカイトとの死闘が再開される。
ミオが朋也のサーベルを拾い上げ、彼にパスした。ひとつうなずいてから、それとなく彼女の表情をうかがう。気絶していたから、さっきのカイトの台詞は聞こえてなかっただろうが。
だんだん腹が立ってきて、少しくらいギャフンと言わせてやってもいいやという気分になる。もちろん、言わせるだけにとどめるつもりだが……。
「ジェネシスッ!!」
マーヤとクルルが即座に魔法反射・半減スキルを発動する。朋也が駆けつける前にも1発ぶっ放していたに違いない。最強魔法だけに威力はすさまじいが、こっちだってそれなりに対応する準備は出来ている。
みなに援護を受けつつ、朋也は再び前面に出た。キマイラの霊力を譲与されているとはいえ、5対1だと卑怯な感は否めないが、こんな無意味な戦いはさっさと終わらせてしまうに限る。これ以上ミオを苦しませないために。カイト自身のためにも。
1戦目でも互角以上に渉り合った朋也だが、神鳥の加護を得た今はあたかも鳥族の一員のように軽やかに宙を舞った。カラス族のサーベル技の威力もさらにもう一段上がっていた。
情勢の不利を見て取ったカイトは、大きく下がると次の呪文を詠唱し始めた。もう1発ジェネシスでくるのか? いや、違う、これは──!?
「神獣召喚! バステッド・モー!!」
突然紫色の光が辺りに溢れ返った。光の中に裸身のネコ族の女性が浮かび上がる。あれがミオたちネコ族の神獣なのか。
神獣バステッドは朋也たちを冷たく見下ろすと、シャーッという雄たけびとともに強烈な全体魔法攻撃を放ってきた。ネコ属性魔法アメジストの極大版という感じだ。
「きゃあああっ!!」
「くっ!」
せっかくピリカに全快してもらったばかりなのに、マーヤもクルルも瀕死の状態だ。魔法耐性が強いはずの千里も肩で荒い息をしている。かくいう朋也も手痛いダメージを被った。鳥属性を帯びた今の彼は、ネコ属性の攻撃と相性が悪い。
唯一、同じネコ属性同士で耐性のあるミオだけが両足でしっかり地面に立っていた。
「朋也」
その彼女が膝を付いていた朋也のもとへやってきて、手を差し伸べる。
「さあ立って。あたいたち2人であいつに思い知らせてやらニャきゃ」
うなずいて立ち上がると、再度構えを取る。
「松果突ッ!!」
「ネイルショットッ!!」
残る3人のバックアップのもとに、ミオと朋也の2人で連携攻撃をたたみかける。ネコ属性も鳥属性もバステッドの加護を得たカイトに対しては効果が薄いが、2人で確実にクリーンヒットを重ねていく。
思ったとおり、カイトは少なくとも物理的にミオを傷つけたくはないのだろう、専ら矛先を朋也に向ける。
「……そうやって、彼女を僕にけしかけるのか!?」
嫉妬と憎悪のこもった目で朋也をにらみつけると、武装爪を振り下ろす。
間に入って攻撃を受け止めたのはミオだった。
「……朋也があたいを奪った、ですって? ……ひとの気も知らないで……」
ミオはカイトをきっと見据えて低くつぶやいた。やっぱりさっきの2人のやり取りは聞こえていたらしい……。
「あんたに何がわかるってのよ!? あたいの方が朋也のこと誰よりも知り尽くしてるのに……あたいの方が鳥の足をこてんぱんにのしてやりたいくらいよっ!!」
「ミ、ミオ……」
「あんたは引っ込んでて! あたいが始末をつける!」
猛然と挑みかかるミオに、カイトは防戦一方だ。
「あたいと朋也の絆はね……あんたにだって、鳥の足にだって、絶対に奪わせやしニャイ!! 壊させやしニャイ!!」
ミオのネコ族最高奥義・九生衝が炸裂し、カイトはその場にがっくりと膝をついた。
「わかっただろ? 俺とミオはかけがえのない家族だ。誰にもひびを入れることなんか出来やしない。けど、俺たちの関係はおまえが思ってるようなもんじゃないんだ。さあ、もうこんなことでケンカするのはやめにしようぜ」
朋也が手を差し出してもカイトは顔を上げなかった。ミオがハッとして駆け寄ると、彼はそのままぐったりと彼女にもたれかかった。
みんな驚いて彼の周りに集まってくる。マーヤたちがヒーリングを一生懸命施すが、どうしたわけか彼の身体は回復魔法を一切受け付けなかった。まるで擦り抜けてしまうかのようだ。
「カイト!? 一体──!?」