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 一行はレゴラスに到着する1時間前に起き出した。他の乗客が寝静まっている間に身支度を整える。まだ胃のほうが起きていなかったが、無理やり朝食を流し込む。いよいよ神獣キマイラの居城に乗り込むのかと思うと、それだけで食欲なんてまるでなくなってしまう。だが、ジュディを連れて帰るまでもう食事にはありつけない。彼女を連れ帰れなければ、これが最後の食事ということになる。最後のメニューはクルルのビスケットだったが、こんなにうまかったのか!? と思うほど美味しく感じられ、朋也はよく噛み締めて味わって食べた。
 デッキの上に上がってみると、ひんやりとした海上の風が頬を刺す。深閑とした大気は、今日が特別な皆既日食の日であることを承知しているかの如く、緊張感に満ちあふれていた。船首から孤島レゴラスを望む。日の出前のうっすらと赤みを帯び始めた東の空を右手に、シルエットとなって浮かび上がる島が目に入った。神殿らしい建物も見える。地上に出ている部分はそれほど大きくない。オルドロイ神殿のように地下につながっているんだろうか。気の所為か、神殿の建物の周りが蜃気楼のようにユラユラと揺らいで見える。
 船はついにレゴラスの埠頭に接岸した。下船したのはパーティーの5人だけだった。他のツアー客たちは朝食の時間までゆっくり寝ているつもりなんだろう。左手にはすぐ近くに観光客向けと思われる施設が並んでいたが、朋也たちには用がなかった。目指すは島の中央にある神殿そのものだ。彼らは真っすぐそちらへ向かっていった。
 神殿への歩道は石造りのアーチが等間隔に立ち並び、両脇を色とりどりの花が絨毯のように埋め尽くしていた。自分たちを引っ立てにすぐにも妖精の警備隊が押し寄せてくるんじゃないかと思ったが、奇妙なことに迎えが来る様子はない。それどころか、神殿の周辺には人っ子1人いなかった。
「変ねぇ、いつもはレゴラス派の子たちがわんさか暇つぶしに来てるのにぃ。やっぱり今日は特別体制なのかしらぁ?」
 マーヤが首をかしげて言う。……いつもは暇なのか?
 アーチが途切れ、神殿の入口前の広場に出る。と、階段の付近に一面黒い羽が散らばっていた。そして、その中央に横たわっていたのは、1羽のカラスの死骸だった。まさか──リルケ!?
 朋也たちはそばに駆け寄り、カイトとともに千里を誘拐した実行犯である知己の亡骸を呆然と見つめた。クルルが徐に進み出てそっと遺骸を手に包むと、花畑に運んでいく。一体何が起こったというんだ? 仲たがいでもしたんだろうか? リルケほどの手だれを葬り去ることのできる者といえば、1人しか考えられないが……。
 一行は不安な面持ちで建物に向かってさらに進んだ。荘厳な伽藍の正面にある大きな扉の前まで来る。この向こうにキマイラの部下がズラリと待ち構えていたりしてな……。意を決して取っ手に手をかけようとしたときだった。
「ようこそ、レゴラスの神殿へ」


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