無言で彼の横顔を見つめながら、まだ体温の残るビロードのようなグレーの毛皮を撫で続けるミオの前で、朋也も黙ったままうなだれた。彼がトラやベスを騙して陥れ、罪のないウサギたちの命まで奪った事実は変えられない。でも、結局彼は、世界をプレゼントしようとまでした彼女のために自らを犠牲にする道を選んだ。どうしようもなくキザなやつだったけど、最後は文句のつけようもなくかっこよかったよな……。自分は果たして彼のように、１人の女性のために命を賭すことまでできるだろうか？
　じっと見ているうちに目頭が熱くなってくる。いま目の前に横たわる亡骸は自分の知っているあのカイトだった。常に距離を置き、決して親しい素振りを見せることのなかった、そんな一匹狼の彼の姿を見かけると、ちょっぴり得したような気持ちになれたものだった。そのカイトも、二度と戻ることのない世界に旅立ってしまった──トラやベスやリルケと同じように。
　ミオはいつまでも彼の毛皮をなでるのをやめようとしない。だが、日は次第に高くなり始めた。ここでいつまでもグズグズしているわけにはいかなかった。
「……ミオ、もう時間がない。俺たちは行かなくちゃ……。けど、お前はここに残ったっていいぞ？」
　顔を上げずにカイトを見つめたまま彼女は答えた。
「うん……ここにいるよ。あたいがそばを離れたら、カイトが可哀相だから……」
　朋也はうなずくと、千里たちを促した。
「待って！」
　神殿の扉に向かって歩きかけたとき、ミオに呼び止められる。
「……やっぱりあたいも行くよ……。このうえ朋也まで失いたくニャイもの……」
「わかった……。無理はしなくていいからな？　戦闘は俺たちに任せろ」
「うん……」
　一行はいったん神殿前の広場を引き返した。花畑に穴を掘り、カイトとリルケ、２人の亡骸を並べてそっと土をかぶせる。５人は静かに手を合わせて２人の冥福を祈った。
　ネコに、カラスに、イヌに、ヒトに、死後の世界というものがあるのかどうか、朋也にはわからなかった。でも、もしあるとすれば……どの種族だろうと、前駆形態だろうと成熟形態だろうと、どちらの世界の出身だろうと、きっとみんな同じところへ行くんだろうな……。
「さよニャら……カイト……」
　弔いが済むと、思いを振り切るかのように、ミオは先頭に立って神殿の中に入っていった。朋也たちは彼女の後に続いた──