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 呆気に取られてながめていると、彼女のいた場所に巨大な亀裂が走り、ぬっと大きな腕が突き出てきた。やっぱり罠だったのか! よく思い返してみれば、さっきのジュディはエルロンの森でカイトが流した映像と同じだった……。絆の銃が知らせてくれなければ危ないところだった。
 千里のそばに駆け寄る。ミオたちも後ろから追い着いてきた。次元の裂け目から全身を現したのは、先ほどのフクロウナギモドキほどじゃないが、身の丈6メートルはあるでかいやつだ。顔が3つある。上から順にコウモリ、モグラ、トドのようだ。どういう組合せなんだか……。ゲッ○ー変型でもするんだろうか?
「我輩ハ神獣きまいら様ノ三獣使ガ1人、おめがきまいらナルゾ。我輩コソハ三獣使最強ニシテきまいら様ノ右腕、カノまりえるノ乱ニテ反逆者ヲ仕留メタノモコノ我輩ナノデアル。観念シテ〝鍵ノ女〟ヲコチラニ寄越スノダ。サモナクバ命ハナイト思エヨ。ソノ代ワリ、オトナシク引キ渡セバ、我輩ガ直々ニ葬ッテヤルカラ感謝スルノダ。クカカカカ」
 それって脅し文句になってないじゃん……。
「じゃあぁ、乱暴に引き渡せば見逃してもらえるのかしらぁ~♪」
 おい、マーヤ……。
 なるほど、三獣使の1人か。確かに、変な性格も含め、サンエンキマイラと似ている……。
 交渉の余地はなく、パーティーは戦闘に突入した。三位一体のオメガキマイラは、身体のそれぞれの部分が異なるタイプの攻撃を仕掛けてきた。頭の部分にあたるコウモリは風属性魔法のターコイズ、真ん中のモグラが岩石落とし、一番下にいるトドがステータス異常を引き起こすブレス攻撃だ。コウモリは吸血能力まで備えていた。そのうえ、特に下の2頭は防御力も高く、効果的なダメージを与えられない。朋也たちは苦戦を強いられた。
「よくもジュディをエサにして私をだまそうとしてくれたわねっ!? ジェネシスッ!!」
 出たぞ! 彼女の場合、額の青筋が〝魔人モード〟シフトの証だもんな……。こりゃ楽勝だ──と思っていたら、オメガキマイラは千里の最強魔法を受けても平然と構えていた。バカな、チャージアップした彼女のジェネシスが効かないなんて!?
「……わかったわ、朋也! あいつ、3属性ニャのよ!」
 つまりこういうことだ。オメガキマイラはキマイラの従者だったがエメラルド属性ではなく、構成する3頭のそれぞれが3元魔法属性を持っており、吸収して相殺してしまったのだった。ジェネシスを禁じ手にしてしまうなんて厄介な敵だ。単属性の単体魔法をチビチビと撃ち込んでも埒が開かないし……。
「言ッタデアロウ。我輩ハ三獣使最強デアルトナ。他ノ2人トハ格ガ違ウノダ。クカカカカ」
「私をあまり見くびらないでよね……」
 千里は再び呪文の詠唱に入った。またジェネシスを撃つのか? 効き目がないってわかってるのに──と思いきや、どうもさっきのジェネシスとは違うようだ。。
「ジェネシス・フラグメンテーション!!」
 彼女が放ったのは単純な複合魔法のジェネシスではなかった。レベルⅢの3属性魔法をそれぞれ個別のターゲットに合わせながら同時に撃ち込んだのだ。しかも、全体魔法なのに効果範囲を絞り込んでピンポイントでダメージを与えている。驚異的なまでにハイレベルな魔法テクニックだった。イヴとの特訓の成果は伊達じゃない。
「バ……バカナ……」
 とどめに朋也とミオが連携攻撃をお見舞いする。オメガキマイラは緑の光の粒子となって砕け散った。後には3元素の鉱石が大量に残される。ジェネシス2発の消費分を補ってお釣りがきた。これだけありゃ当分彼女に頼れそうだな……。
「キマイラ……そんなにまでして私に言うことをきかせたいの?」
 拳を握り締めながら、怒りに身を震わせる彼女を横目に、朋也は疑念を抱かざるを得なかった。彼女の言うとおり、彼のこれまでの手口は、とても世界の守護者たる叡智の神獣のやることとは思えない。ジュディを人質にして誘き寄せるだけでは飽き足らず、こうして使者を送り込んで有無を言わせず強引に彼女の身柄を確保しようとするなんて。カイトの言っていたことが事実なら、エデンを救う最後のチャンスを逃すまいとよっぽど焦っているだけなのかもしれないが……。しかし、レゴラス神殿がモンスターの巣窟と化してしまっていることといい、彼にはまだ自分たちの知らない裏があるのではないかという気がしてならなかった。
 オメガキマイラを撃破したことで、用心深い妖精たちはそれ以上朋也たちに近寄ろうとはしなくなった。おかげで多少は行程が楽になる。モンスターのほうは相変わらずだったが……。
 一行はついに最上階まで後1ブロックというところまでやってきた。この通廊を渡れば、いよいよキマイラの玉座だ。最後のブロックは強烈な緑色の輝きに包まれ、モンスターを周りに寄せ付けなかった。ブロックの上には奇妙な光の綾が揺れ動いているのみだ。朋也たちは一歩ずつそこに近づいていった。どうやらここをくぐっていけば玉座に行けるらしい。
 遂にここまでやってきたか……。千里が手を握ってきた。足が震えている。やっとジュディに逢えるという思いと、これから自分がどうされるのかわからないという不安が錯綜し、気持ちの昂ぶりを抑えられないのだろう。彼女の不安をどれだけ和らげられるかわからないが、励ますようにそっと手を握り返す。自身も激しく高鳴る動悸を抑え、朋也は仲間たちを振り返った。
「さあ、みんな! キマイラに会いに行くぞ!!」


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