次元の裂け目から怪物が全身を現わす。先ほどのフクロウナギモドキほどじゃないが、身の丈6メートルはあるでかいやつだ。顔が3つある。上から順にコウモリ、モグラ、トドのようだ。どういう組合せなんだか……。ゲッ○ー変型でもするんだろうか?
「我輩ハ神獣きまいら様ノ三獣使ガ1人、おめがきまいらナルゾ。反逆者ノ一族ノ末裔ドモヨ、コノ先ハきまいら様の御所、先ヘ進マセルワケニハイカヌ。命ガ惜シカッタラ引キ返スガヨイ。ダガ、ドコヘ逃ゲヨウト無駄ナコトダゾ。オ前タチハココデ死ヌノダカラナ。クカカカカ」
どっちにしろ殺すつもりなんじゃないか、支離滅裂なこと言いやがって……。
「じゃあぁ、逃げないように引き返せばいいのねぇ~♪」
マーヤ……こんなやつの揚げ足とってもしょうがないと思うが。
なるほど、三獣使の1人か。確かに、変な性格も含め、サンエンキマイラと似ている……。
交渉の余地はなく、パーティーは戦闘に突入した。三位一体のオメガキマイラは、身体のそれぞれの部分が異なるタイプの攻撃を仕掛けてきた。頭の部分にあたるコウモリは風属性魔法のターコイズ、真ん中のモグラが岩石落とし、一番下にいるトドがステータス異常を引き起こすブレス攻撃だ。コウモリは吸血能力まで備えていた。そのうえ、特に下の2頭は防御力も高く、効果的なダメージを与えられない。朋也たちは苦戦を強いられた。
「この野郎、ご主人サマにひどいことしやがって! 牙狼ッ!!」
ジュディが奥義の必殺剣を繰り出すが、トドとモグラの巨大な4本の足によるガードは固く、なかなか崩すことができない。彼女はトドの鰭脚に弾き飛ばされてしまった。
「うわあっ!!」
「愚カ者ドモメ。我輩ハ三獣使ノ中デモ他ノ2頭トハ別格ナノダ。三獣使最強ニシテきまいら様ノ右腕、カノまりえるノ乱ニテ反逆者ヲ仕留メタノモコノ我輩デアルゾ。クカカカカ」
何だって!? じゃあ、170年前にオルドロイ派のリーダーを殺したのはこいつだったのか……。
マーヤの顔に怒りの色が浮かぶ。
「あんたが仕留めたですってぇ!? それは違うわぁ……マリエルはあんたなんかに負けてやしないわよぉ!! あたしたち一族の未来を護ろうとして、破れたふりをしただけなんだからぁ!」
「何ヲ言ウカ、コノ嘘ツキメガ! まりえるハ確カニコノ我輩ガ殺シタノダ! 羽ヲムシリ、引キ千切ッテヤッタノダ! さんえんノ仇ナドドウデモヨイガ、我輩ヲ侮辱スルコトハ許サンゾ! きまいら様ノ命令モ我輩ハ聞イテイナカッタコトニスル。貴様モ同ジ目ニ遭ワセテヤロウ。愚カナ先任者ノ後ヲ追ウガヨイ!!」
「嘘か本当か、あんたのその目で確かめてごらんなさぁーいっ!! マリエルーッ!!!」
マーヤは召喚魔法を行使し、自身が尊敬するかつての妖精長を喚び出した。現れたマリエルは、いつもであればおどけたクスクス笑いを浮かべているはずなのに、冷ややかに自らの肉体を滅ぼした相手を見下ろす。
「! オ、オ前ハ!?」
ピンク色に輝く幾重もの光輪がオメガキマイラに襲いかかる。召喚する者もされる者もともにSSクラスの魔力の持ち主なだけに、その絶大な威力からは最強の三獣使といえど逃れる術を持たなかった。
「バ……バカナ……」
オメガキマイラは緑の光の粒子となって砕け散った。後には3元素の鉱石が大量に残される。これほど大量のモンスターの相手をさせられるとは思わず、手持ちの鉱石で足りるかどうか不安だったが、これで当分切れる心配はなくなったな。
「マリエルゥ……あなたの仇は討ったわよぉ……」
マーヤは胸に手を当ててそっと呟いた。そう、確かに彼女は負けたわけではなく自ら選んだ結果だったが、三獣使に肉体を抹消させられたのは事実だったからだ。
オメガキマイラを撃破したことで、妖精たちはそれ以上朋也たちに近寄ろうとはしなくなった。そりゃ、彼女たちならマリエルをパトロンに得たSSクラスを相手に戦いたいとは誰も思わないだろうな。おかげで多少は行程が楽になる。モンスターのほうは相変わらずだったが。
一行はついに最上階まで後1ブロックというところまでやってきた。この通廊を渡れば、いよいよキマイラの玉座だ。最後のブロックは強烈な緑色の輝きに包まれ、モンスターを周りに寄せ付けなかった。ブロックの上には奇妙な光の綾が揺れ動いているのみだ。朋也たちは一歩ずつそこに近づいていった。どうやらここをくぐっていけば玉座に行けるらしい。
遂にここまでやってきたか……。マーヤが手を握ってきた。足が震えている。妖精長としての彼女の力が本当に試されるのはこれからだもんな……。彼女の不安をどれだけ和らげられるかわからないが、励ますようにそっと手を握り返す。自身も激しく高鳴る動悸を抑え、朋也は仲間たちを振り返った。
「さあ、みんな! キマイラに会いに行くぞ!!」