最後の三獣使オメガキマイラはさすがに神殿内で相手をしてきたモンスターたちに比べても手強かった。名前だけなら主人の神獣より強そうだ……。真ん中のモグラが岩石落とし、下にいるトドがステータス異常を引き起こすブレス攻撃と、それぞれタイプの異なる特殊攻撃を仕掛けてくる。コウモリが不在な分マシかもしれないが……。
そのうえオメガキマイラは防御力も高く、物理攻撃主体の朋也ではなかなか効果的なダメージを与えられない。魔法には弱いのかもしれないが、こちらも魔法戦で中心的な役割を果たしてきた千里が離脱しちゃったし。これまで頼りすぎていたのは失敗だったかも……。
「我輩コソハ三獣使最強ニシテきまいら様ノ右腕、カノまりえるノ乱ニテ反逆者ヲ仕留メタノモコノ我輩ナノデアル。貴様ラニ勝チ目ハナイノダ。クカカカカ」
ミオが皆を集め、作戦会議に入る。どうやらアイディアを閃いたようだ。
「戦力の不足は頓知で補えばいいんだニャ~♪」
頓知か……そんなもんで勝てるんだろうか? と思いつつ、他に手もないので彼女の計画に従うことにする。ミオはオメガキマイラに向き直って尋ねた。
「ちょっとあんた、三獣使最強っていうけど、どっちが最強ニャの?」
「ドッチトハドウイウ意味ダ?」
「あんたと、あんた」
もちろんモグラとトドを指差している。
「ばかナコトヲ言ウナ。我輩ハ三位一体ノ霊獣デアルゾ」
「あら、もしかして最強ニャのはさっきのコウモリのことニャのかしら?」
「何ヲ言ウカ! アレハ我輩ノウチデ一番弱イ部分ダ」
「じゃあ、2人のうちではどっちが強いの?」
クルルも加わる。
「地中デハ我輩ダ」
「水中デハ我輩ダ」
ホントにゲッ○ーロボみたいなやつだな……。すでにミオに乗せられ、別々の回答をし始める。しめしめだ。
「ここではどうなの? 水がないからモグラさん?」
「ソノトオリダ」
「イヤ、ソンナコトハナイゾ」
「何ヲ言ウカ! 〝鍵ノ女〟ヲ手ニ入レタノハ誰ノ手柄ダト思ッテイルノダ!?」
「黙レ! アレハ我輩ノふぉろーガアッタカラ──」
4人の見ている前で、上下間の言い争いを始める……。作戦の第一段階は成功だ。分離して行動できたり、合体時の言動に一貫性がないのは、3体それぞれが独立した準人格を持っているからだろうというフィルの推測はやっぱり正しかったようだ。
「まあそんニャことはどうでもいいわ。どのみちあんたたち1頭1頭は最強じゃニャイのよね~?」
「ソンナコトハナイ。我輩ハ3体イズレモ最強デアル。他ノ2人ノ三獣使トハ格ガ違ウノダ」
「あら、サルもカメもあんたはバラだとたいしたことニャイって言ってたわよ?」
大嘘……。
「おまけに不細工だとも言ってたしな」
加勢したつもりだったのだが、ミオに「余計なこと言うニャ!」と蹴飛ばされる……。
「何ヲ!? ナラバ、タイシタコトアルカナイカ、トクト拝マセテクレルゾ!」
2体が分離する。フィルはこの瞬間を逃さなかった。
「バンブーサークル!!」
トドを隔離して再合体を防ぐ。ここまで来れば、後はセオリーどおり1体ずつフクロにするまでだ……。
「さ~、それじゃとくと拝ませてもらうとするかニャ~♪ エレキャット!!」
「フリーズ!!」
「樹海嘯!!」
とどめに朋也が渾身の一撃を加える。楽勝だった。もう1体も同じ要領で片付け、道中最大の障害は取り払われた。オメガキマイラはそれぞれ緑の光の粒子となって砕け散り、後には3元素の鉱石が大量に残される。神殿内で大量のモンスターの相手をさせられるとは思わず、手持ちの鉱石で足りるかどうか不安だったが、これで当分切れる心配はなくなったな。
朋也たちが激戦(?)を制覇してホッと息を吐いていると、また耳慣れた声が聞こえてきた。
「おおーい、みんなーっ!!」
ジュディの声だ!
「もしかしてまた偽物じゃないだろうな?」
まさか4獣使目が出てきたりとか。もう勘弁して欲しい……。
「バカ、あれは正真正銘のバカイヌだわ!」
嗅覚の鋭いミオが保証する。ジュディは息をゼエゼエ言わせながら4人のいるところまで転がり込んできた。あちこちに生傷をこさえているが、大事に至るほどではない。おそらくここに来るまでの間にモンスターの相手をしてきたんだろう。フィルがヒーリングを施す。
「よかった、ジュディ。無事だったんだな!」
朋也は心の底から安堵し、ホッと胸を撫で下ろした。カイトとリルケに誘拐されて以来、彼女の身を案じない日はなかった。何より彼女の身を心配してたのは……あ──
「ご主人サマはどこ!?」
4人は顔を合わせ、沈んだようにうつむいた。
「……すまない。たったいま、三獣使のやつにさらわれたとこだ……」
「何だってぇっ!?」
目を剥いて怒り出す。こ、こら、そんなに首絞めたら窒息しちゃうよ(+o+;;
「あんたをダシにされて、性悪女が自分から罠にはまりに行ったんだから、しょうがニャイでしょ? いまはそんニャことやってる場合じゃニャイわよ?」
ジュディはやっと手を緩めた。死ぬかと思った。
「道理で監視が手薄になったと思ったんだ。ともかく、急いで助けに行かなくちゃ!」
「ああ!」
ジュディを加えた一行は、再び最上階を目指して進んでいった。オメガキマイラを撃破したことで、用心深い妖精たちはそれ以上朋也たちに近寄ろうとはしなくなった。おかげで多少は行程が楽になる。モンスターのほうは相変わらずだったが。
一行はついに最上階まで後1ブロックというところまでやってきた。この通廊を渡れば、いよいよキマイラの玉座だ。最後のブロックは強烈な緑色の輝きに包まれ、モンスターを周りに寄せ付けなかった。ブロックの上には奇妙な光の綾が揺れ動いているのみだ。朋也たちは一歩ずつそこに近づいていった。どうやらここをくぐっていけば玉座に行けるらしい。
遂にここまでやってきたか……。この先に世界の守護者にして事件の首謀者であるキマイラが待っている。そして千里も……。激しく高鳴る動悸を抑え、朋也は仲間たちを振り返った。
「さあ、みんな! キマイラに会いに行くぞ!!」