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フィル: --

 キマイラはさっきからじっとうずくまるようにして動こうともしない。勝負をつけるなら今だ。朋也はとどめを刺すべく狙いを定めようとした。
「待ってよ、朋也!」
 クルルが彼の腕をとって押しとどめた。
「もうやめようよ。クルルたちの目的は神様を殺すことじゃないんだし、後は千里を助ければいいだけじゃない!?」
「う~ん……でも、こいつはクルルの村の仲間の命を奪った張本人なんだぞ?」
「でも、それは神様として世界を護ろうとしたからでしょ? もう起きちゃったことはしょうがないんだし。だからって殺しちゃったら、同じことになっちゃうじゃない!」
「あたしもクルルに1票入れるわぁ~。一応あんなでもあたしの上司なんだからねぇ~!」
「朋也さん、お言葉ですが……私たちが神獣を滅ぼすのは、やはり分を超えた行いだと思いますよ?」
「まあ、みんながそう言うなら……」
 3人の反対に合い、朋也は渋々うなずいた。まあ、この世界の住人の彼女たちにとってみれば、やっぱり神様なんだしな……。
「こういうときはとどめをきっちり刺しとかニャイと、後で後悔することにニャるもんだけどニャ~」
 ミオが面白くなさそうにぶつくさ文句を垂れる……。
 朋也は武器を収めると神獣と向き合った。
≪神獣であるこの余を倒すとは、つくづくニンゲンとは恐ろしい生きものよ……。その強大な力を持ってすれば、あるいは──≫
 3つの頭でしばらく瞑想するかのようにじっと考え込んでいたキマイラはおもむろに目を開いて言った。
≪よかろう……ここは1つ、お主に賭けてみよう。望みどおり、紅玉の復活はあきらめ、〝鍵の女〟を解放しよう≫
 キマイラの言葉を聞いて、パーティーのみなの顔に笑みが広がる。
「本当か!?」
 うなずくと、彼は朋也の目をひたと見据えて注文を付けた。
≪よいか、朋也よ。次の皆既日蝕の時まで猶予を与える。それまでに、お主はモノスフィアのニンゲンの行いを改めさせ、エデンを救ってみせるのだ! 余の最後の力をもって今一度クレメインのゲートを開く。そこから元の世界へ還るがよい≫
「わかった。ありがとう、キマイラ! 俺、やってみるよ!」
 口で言うほど生易しい仕事でないのはわかっている。だが、世界の守護者たる神獣が、これまでの考えを改めてまで自分に望みを託してくれたのだ。自分の全存在を賭けてもやり遂げなくっちゃな……。
「よかったですね、朋也さん……」
 フィルが本当に嬉しそうに朋也に向かって微笑みかける。
「ああ。これもみんな君のおかげだよ、フィル……」
 朋也も微笑み返し、彼女の手を握った。そのまま見つめ合っている2人に、他の仲間たちがブーブーと文句を言う。
「ちょっと朋也、あたいたちの貢献はどうニャるわけ!?」
「そうよそうよぉ~! みんなのことすっかり忘れちゃってさぁ~!」
「ごめんごめん! もちろん、みんなのおかげだよな」
 朋也があわててフォローすると、誰からともなく笑いが巻き起こった。
「プッ」
「クフフ♪」
「アハハハ!」
「フフフ……」
 やっぱりフィルの笑顔が一番素敵だな……。


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