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ミオ: +++

 朋也自身も呆然となってジュディの首輪を見つめた。努めて冷静になろうとするが、頭の中で考えをまとめることができない。これは……本当にミオの仕業なんだろうか? あいつがこの間もいろいろ勝手に動いていたことはわかっていた。千里を救出するためだけに朋也たちについてきたわけはでないことも。だけど……あいつにジュディの命を奪うことまでできるだろうか?
「違う……これは、何かの間違いだ……」
 朋也は首を振りながらささやくように答えた。誰も現場を見た者はいないのだし、彼女がやったという証拠もない。第一、ここに残されているのは剣と首輪だけで肝腎の本人が見当たらない以上、殺されたとは限らないし。ただ、魔法の世界エデンでは死体が残らないことも珍しくはないので、そうでないとも言い切れないが……。もっとも、合理的に判断すれば、彼女の関与を否定することは難しい。彼の返事はむしろ祈りに近かった。
 千里は目を大きく見開いてわなわなと口元を震わせながら朋也の顔を見ると、吐き捨てるように罵った。
「もういい!! あんたなんか……大ッ嫌いよ!」
 そして、プイと顔を背ける。
 一行はそれから互いに言葉を交わすこともなく先へ進んだ。千里は朋也から10メートル以上距離を置き、そばに近寄ろうともしない。先行する朋也が立ち止まると、彼女も合わせて止まりそっぽを向く……。この塔の中にはモンスターは出現しないようだから危険はないけど……何だかなあ。
 道々驚いたことに、遠くに輝く銀河や星雲と思われたものは、実はホントに手の届くところを漂っているミニチュアだった。それどころか目の前をついと横切ったりもする……。見た目は天文写真で見るような銀河そのものだし、模型だとしても何でできてるのかさっぱりわからない。うっかり触ったら、いきなりバシッと音がしてルビーの炎が燃え上がった。
「な、何なんだ、これ!?」
 火傷しそうになった手を引っ込めて目をパチクリさせる。
「たぶん、アニムスのかけらだと思うわぁ~」
 マーヤが答えた。
「かけら??」
 彼女の説明では、世界の法則を司るアニムスは始原の宇宙の歪みから生じたエネルギーが形をとったもので、最初はこんなふうにバラバラだったらしい。それが最終的に紅、碧、蒼の3つの性質を持つアニムスの形にまとまったのだとか。再生の儀式を執り行ったこのアニムスの塔の中は、どうやらその原初の状態を一時的に再現しようとしているらしい。
 何やらよくわからないが、ともかく朋也はそれ以降ミニチュア銀河には近づかないことにした……。
「あらぁ~、あたしが触ったら鉱石がいっぱい出てきちゃったぁ~♥ これだけあれば一生蜂蜜に困らないわねぇ~♪」
「クルルのほうはHPが回復したよ♪」
 ……。どうやら朋也は単に運が悪かっただけらしい。
 5人は塔の最上階まで後1歩のところまで来た。最後の1段を上がってそこに到着する。半透明の物質で出来た奇妙な形状の祭壇のようなものの上に、輝くばかりの大きな紅と碧の宝玉が浮かんでいる。あれが……本物のアニムス! エメラルドに比べてまだルビーのほうが若干輝きが鈍いのは、まだ完全には再生していないせいだろう。その間に、両腕を大きく頭上に広げ、尻尾を高々と掲げているミオがいた。彼女の声が聞こえてくる。
「ウフフ……アハハハッ! ついに手に入れた!! ルビーとエメラルド、2つのアニムス! これで世界はあたいのもの……あたいが女王!! トラも……ベスも……カイトも……神獣でさえ、あたいの手駒だった──!」


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