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ミオ: -----
* ベストエンド不可

 ……俺のこと、愛してるだって? アハ……ハ……。ミオ……お前、またそうやって俺のことをだまそうっていうのか? まだ俺のことを苦しめ足りないのか? 朋也は怒りに任せて喚き散らした。
「気安く俺の名を呼ぶなっ! 俺に気があるふうを装って、トラやカイトが死んだ時も哀しんだふりをして、みんなの目を欺いて……そのうえジュディの命まで奪うような奴は、もう俺のネコじゃない!! お前なんか拾わなけりゃよかった!! アニムスを返せっ!!」
 ミオの表情が凍りついた。あんなにギラギラしていた目から光が失せ、下を向いて唇を噛む。
「そう……あたいの愛が受け入れられニャイっていうのね……」
 不意に彼女の顔が絶望に歪んだ。半泣きになって叫ぶ。
「だったら……あんたニャンか死んじゃえっ!!」
 死んじゃえ、か……本性を表したってとこか。いや……そうは聞こえなかった。むしろ自分が死にたいとでも言いたげだったな……。ミオ……俺は一体どうすりゃいいんだ!?
「アニムスの本当の力、見せてあげる。ナインライブズ!!」
 彼女が一声叫ぶと、驚いたことに彼女の身体が紅と碧の光の中で分裂を始めた。たちまち8人の分身が現れる。それはアニムスの力を得ることなくしては決して発動させられない種族の究極スキルだった。
「アニムスの力、思い知るがいいわ!」
 9人のミオが指を突き出して宣戦布告する。
「思い知るのはあなたのほうよ! ジュディの仇!!」
 千里はいきなりジェネシスをぶっ放した。3原色の閃光がミオたちに襲いかかる。
「フン! 何よそれ? 痛くも痒くもニャイわ♪」
 強がり抜きにたいして効いてないみたいだ……。おそらく、千里が魔力を吸い取られて力が落ちているのに対し、ミオのほうはアニムスの力を得てパワーアップしてるせいだろう。
「おい、あんまり無茶はしないほうが……」
「ウルサイッ! 私に指図しないでよ! ジェネシスッッ!」
 聞く耳を持ってくれない。大体、弱点属性のサファイアⅢを連発した方がよっぽど効率的なんだがなぁ。それに、向こうは9人パーティーなんだから、バラバラに戦ってちゃ不利なだけなのに……。
 しょうがないので彼女はほっとくことにし、残りの仲間で態勢を整える。いつもなら戦闘の司令塔はミオの役割だが、その彼女が敵になってしまった以上、朋也が引き受けざるを得なかった。ミオだったらここは……全体攻撃を交えながら1人ずつ確実に潰していくだろうな。千里を囮にする手を使ったかもしれないが……。本人を除く8人はコピーなんだから、最後の1人になるまでそのやり方で倒していけばいいはずだ。
 やれやれ……それにしても、よりによって世界の存亡を賭けてお前と闘う羽目になるとはな、ミオ……。
 一応千里も含めてバックアップに気を配りながら、攻勢に出る。やはりネコ族だけあって、フィルとマーヤのステータス攻撃のうち睡眠系の技にはある程度の効果が見られた。眠りこけたところを狙い、すかさず朋也が九生衝を繰り出す。我ながら卑怯な手口だとは思いつつ、そんな戦法を採ったのは、意識のはっきりある彼女に痛みを負わせるよりはまだマシな気がしたからだ。
 何だかんだ言っても、やっぱり彼女に向かって爪を打ち振るうのは抵抗がある。これまでパーティーの物理攻撃の中心だったジュディさえいれば、彼女に代わって欲しかったところだ。けど、彼女だって親友相手に本気で剣を振るいたくはないだろうな……。そのジュディはミオに──。
 もっとも、本人の証言を聞いた今でさえ、朋也にはミオがジュディを本当に殺したとは信じられずにいたのだが……。
 マーヤとクルルのきめ細かい支援を得つつ、フィルの樹海嘯、千里のジェネシスに朋也の九生衝を組み合わせることで、1人、また1人とミオの分身を打ち破っていく。HPが尽きると、彼女たちは碧と紅のフレームと化して消滅していった。
「ニャかニャかシブトイじゃニャイ。でもね、あたいに勝てるわけがニャイのよ、朋也。いい加減降参したら?」
 ミオはまだ余裕の笑みを浮かべて挑発する。
「朋也ッ! MP!」
 千里が腕を突き出してきた。何かと思ったら、補充しろと言ってるらしい……。もう自分で勝手にやってくれ! とまとめてアイテムを渡す。ホントはパーティーの回復と補助も担当して欲しいところなのに……。
 余裕綽々だったミオも、さらに分身が倒れて後4人にまで減ると顔色が変わってきた。長期の消耗戦になれば人数の多いほうが勝つのは当たり前だと踏んでいたのだろう。それに、ミオはなぜか殺意を剥き出しにしてみせたはずの朋也を攻撃するのを避け、女性陣、中でも千里ばかりを狙った。彼女たちには朋也が後衛で防御を最優先にさせていたし、攻撃の要を務めたのも彼だったので、ミオの立場からすれば戦術的には明らかな誤ちのはずなのに……。
「もうヘロヘロニャンでしょ!? さあ、早く降参しニャさいよッ!!」
「お前がアニムスを渡すまで、誰が降参なんてするもんか!!」
 実際ヘロヘロだった。ほとんど1人で前面に出ていたし、ミオが本気で彼と立ち回りを演じ始めたからだ。彼女の動きにはついていくだけでも精一杯だった。それでも、ネコ族のスキルをほぼ究めたといっていい今の朋也には決して不可能なことではなかった。ほとんど意地の張り合いに近かったが。
 ついに8人目を倒す。ミオの動きが止まった。ミオは唇を噛みしめてじっとうつむいていた。しばらくして、半べそになって声を絞り出すように叫ぶ。
「……降参……してよ……あたいはこんニャにあんたのことが好きニャのに……愛してるのにっ!!!」
 お前、まだそんなこと言って俺をかどわかすつもりなのか!? それとも、まさか本当に──?
 言葉とともにすさまじい雷光がパーティーに向かって放たれる。こんな技にはお目にかかったことがなかった。ネコ族の特殊技エレキャットにバステッドの召喚魔法を足したような感じだが、召喚魔法よりずっと強烈だ。これもアニムスの力なのか!? ネコ属性に対する耐性がすっかり身に付いた朋也にも、今のはかなりこたえた。クルルとマーヤは気絶してしまっている。千里でさえ、両足で身体を支えるのがやっとの有様だ。
 フィルにセラピーをかけてもらうと、朋也はただちに前面に出た。いま千里たちに手を出されたらまずい。素早くミオの後ろに回りこみ、背後をとることに成功する。クレメインの夕日の丘で初めて〝ミャウ〟に出会ったときのことを思い出す。あのときの俺とは違うってこと、見せてやる!
「わがまま言うのも大概にしないか!!」
「フギャッ!」
 朋也の一撃を食らい、ミオは前のめりに倒れた。すぐに起き上がって忌々しげにこっちを振り返る。まさか朋也に身のこなしで遅れをとるとは思わなかったのだろう。
「九生衝!!」
 間髪入れず、連打をたたき込むネコ族の最高スキルを発動する。だが、朋也は4撃まで放ったところで手を止め、後ろに下がった。カイトを殺したときの彼女に、いまの自分が重ね合わさって見えてしまったからだ。
 だが、それ以上はもう必要なかった。ミオはその場に倒れこみ、顔を上げるのも辛そうだった。アニムスの力の流入も止まる。勝敗は決した。
「そんニャ……あたいが……負けるニャンて……」
 がっくりと肩を落とし、腑抜けたような顔でつぶやく。
 やった、終わったぞ。ミオが170年前のニンゲンの先祖以上の大罪を犯すことはこれで阻止できた。もしそんなことになっていたら、全部俺の責任に等しいもんな……。
 朋也が安堵のため息を吐いていると、マーヤが彼に向かって叫んだ。
「朋也、今のうちよぉー! 早くアニムスを取り返してぇー!」
 そうだ、まだ仕事は残ってたんだ。重い腰を上げ、座り込んだままのミオの脇を通って、朋也はアニムスを回収しようと跳びついた。碧玉と紅玉を一息に両手で包み込もうとしたとき……2つの宝玉は突然反発して床に激突し、砕け散った──


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