朋也は千里とジュディと一緒に元の世界へ帰ってきた。それも驚いたことに、出発した当日に……。マーヤに聞いた〝時差〟の話はやっぱり本当だった。
次の日から、彼はこれまでどおりの学園生活に戻った。エデンでの約1ヶ月間の出来事が夢だったようにさえ思えてくる。それぐらい、世界は何も変わっていなかった。ただひとつ、〝彼女〟がいなくなったことを除いては──
ネコにとって、本当に愛する飼い主への愛情とは、母親に対するそれであり、我が子に対するそれであり、恋人に対するそれであり、それらを全て併せた以上のものだという。あのまま誰の目にも留まらなければ、確実に冷たくなっていたところを、たまたま自分が見つけて拾った……ただそれだけのことなのに、彼女は1つの世界を壊し、1つの世界を創ろうとまでした。結局のところ、自分はエデンを救ったことになるのかもしれない。でも……1つの世界より、1匹のネコを救えなかったことの方が、朋也の胸は痛んだ……。
夜19時10分前──。朋也の毎日の日課が始まる。その時間になると、岩崎家の前には腹ぺこの外ネコたちが集まってくるのだ。車庫、生垣、門の上にも、仲良く寄り添って、ときに小競り合いを始めたりもして、彼が玄関に現れるのを待つ。
あっちの若くてすばしっこい黒は、ちょっとカイトに似て警戒心が強い。もう少し時間が必要だな……。向こうのきったないペルシャは、ブブに負けない大食漢だ。さすがに1匹だけ除け者にするわけにもいかないのでつい与えてしまう……。外見がトラに瓜二つの貫禄たっぷりのトラネコもこの間やってきた。彼みたく性格まで気前のいいやつにはまだお目にかかってないが……。カワイイ三毛猫も来る。雰囲気はお魚ちゃんにちょっと似た感じだ。
〝彼女〟に似ている子には出会っていない。その〝彼女〟は、首輪を目印にした若木の下で静かに眠っている。
彼がいま付き合っているのは、みんな食事時にやってくる〝お客さん〟だった。〝家族〟は……いない。もう2度と作らないつもりだ。1人の子を深く愛しすぎることが恐かったから……。
門によりかかってみんなを見回し、咽喉に手をやったりして、自分の動きに耽々と注目している客人を目を細めて眺め終わると、朋也は彼らに向かって言った。
「さあ、みんな。ご飯にしよっか!」
the end