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 朋也とミオのエデンでの新しい生活が始まった。2人はシエナ近郊のとある空き家を新居に定めた。
 彼はモンスターハンターを生業にすることにした。モノスフィアからの流入はなくなったが、すでに入り込んだモンスターはまだ時折住民を脅かしていたのだ。
 ミオはときどき朋也を手伝ったりもしたが、基本的にプライベートな時間は好きなように使い、朋也にも何をしているか話そうとしなかった。彼女の性格はわかっていたので、朋也もあえて聞かなかった。ただし、浮気だけはよしてくれ、少なくとも相談してくれとは注文したけど……。
 それでも、ミオは朋也があらかじめ覚悟していたのに比べると拍子抜けするくらい、素直に自分と向き合ってくれた。
 そんなこんなで、ときに味気なさを覚えるほど平穏な日々が続いた。彼は幸せだった。
 ところが──

「それじゃ、出かけてくるよ」
 言いながら、さりげなく彼女の表情を読み取ろうとする。最近、俺が長い間留守にするって言うと目の色が変わるんだよな……。気づいてないと思ってるんだろうが、俺の目はごまかせないぞ? 次はきっと場所を訊いてくるに違いない……。
「今度はどこ?」
(やっと羽を伸ばせるニャ~♪ とりあえずどこ行くか訊いとこっと)
「バズラの北側の山の中さ。何でもデカイのが出たそうだ」
(ほらみろ。次は期間だ……)
「どのくらい?」
(そっち方面なら当分大丈夫だろうけど……)
「そうだな、まあ1週間で戻ってくるさ」
(と言いつつ、5日で戻ってやるからな)
「わかったわ。なるべく早く戻ってきてね♪」
(ちっ、1週間ぽっちか。もうちっと行ってりゃいいのに。一応安全圏は5日と見ておくか……)
「行ってらっしゃい、Darling♥」
 いつもの挨拶を交わすと、ルビー号のエンジンをかける。あ、もう家の中に入っちまいやがった。昔は俺の姿が道の角を曲がって見えなくなるまで見送ってくれたのに……。
 そう……実は最近、ミオの様子がおかしいのだ。言葉に出ない腹の探り合いバトルを始めて何日になるだろう? 少なくとも、彼女が自分に隠れて何か企んでいることだけは疑いの余地がない。もしかしたら、よそに男ができて逢引してたりなんかしないだろうか──というのが、今の朋也にとって最大の頭痛の種だった。
 ネコ族の基準でいってもカイト以上の男はエデン中捜してもまず見当たらないし、そのあいつに勝てたんだからまさかとは思うが、それでも気まぐれで飽きっぽい彼女のことだから油断はできない。これまで何とかして勘付かれないように裏をとろうと探ってみたが、未だに決定的な浮気の証拠は見つかっていなかった。頭の回転の速いミオのことだ、もし本当にしてるんなら絶対バレないようにやるだろうけど……。ちくしょ~、俺はまだこんなに彼女一筋なのに。
 まあでも……あの頃みたいに世界をリストラしようなんて気を起こさないだけマシか。
 ミオは朋也が出かけると、ホッと息をついて窓際に歩いていった。すでに彼のことは頭の中から追い払われてしまっていた。次の計画について目まぐるしく計算を働かせる。目下の情報を総合すると、やっぱり当初目をつけたとおり海中にある可能性が高いということだったけど……。それにしても──彼女は窓辺に腰掛け、レモンの形をしたグリーンの瞳をキラキラと輝かせながら、夢心地でつぶやいた。
「フミュ~……サファイアのアニムスはどこにあるのかニャァ……」



fin☆


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