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ジュディ: ---
* ベストエンド不可

 ジュディは叫びながら朋也に斬りかかってきた。
「うおおおおっ!!」
 吠えながら剣をメチャクチャに振り回して打ち付けてくる。すさまじい剣圧だ。練習試合で本気を出すことなどなかったとはいえ、普段の彼女にはここまで朋也を押しまくるパワーはない。怒りに駆られ力任せに剣を振るっているので、切れが鈍い分まだ助かっているが……。
 もう1つ、レゴラスに入ってから、彼女がウーのピラミッドで入手したドーベルソードを朋也の剣と交換したことも救いだった。やっぱり軽い方がいいというのが理由だったが、もし史上最強の剣をいまの彼女が手にしていたら、ダリの街中で購入した普通の剣など身体ごと真っ2つにされてしまったに違いない。
「ご主人サマを返せ、返せ、返せーーっ!!」
 フィルの言うとおりまったく気は抜けなかったが、朋也はどうにか彼女の剣をガードしきった。もっとも、こちらの剣もジュディの装備するバーナードの盾のおかげでほとんどノーダメージだったが。
 不意に彼女は攻撃をやめて後ろに下がった。剣を前に突き出して両手で支える。呪文の詠唱? まさか──
「ウーの神様ッ!!」
 剣では埒が開かないと見たのか、彼女は自らの一族の守護神獣を呼び出した。背後にローズビィ・ウーの姿が浮かび上がる。やっぱり召喚魔法か……俺だけ攻撃してくれればいいのに、他のみんなまで巻き添えを食っちまう。
 召喚魔法に対してはクルルの反射スキルが通用しないため、マーヤとフィルに魔防アップと回復の用意をするよう伝えようとしたとき──ジュディの頭上にもう1人の影が浮かび上がった。
 キマイラにも引けをとらぬ威厳を備え、長い杖を手にいかめしくこちらをじっと見据えていたのは、ローズビィの伴侶、すなわち守護神カニアス=ウー本人だった。そうか……キマイラが倒されて行動制限が解かれたんだ。
 実際には召喚魔法というのは、神獣当人が喚び付けられて直接自らの意思で攻撃するわけではなく、誓約を交わした術者にその能力を貸し出しているにすぎない。だが、カッと目を見開いて自分を睨みつけるウー神に、「彼女を裏切らないと約束したはずではないのか!?」と責められているようで、朋也は胸がチクリとうずいた。
 2人は同時に強力な全体魔法を放ってきた。さしずめ〝神獣めおとアタック〟ってとこか……。ローズビィの巻き起こす地属性の砂嵐が吹きすさび、さらにカニアスの怒りのいかずちが頭上から降りかかる。
「きゃあああっ!!」
「はひぃ~~~!!」
「みぎゃ~~っ!!」
 破壊的なダブル召喚の前に、パーティーは為す術もなく翻弄された。クルルもマーヤも、ミオまでがノックアウトされてしまう。どうにか持ちこたえているのはフィルだけだ。自分もイヌ属性に耐性が付いていなければ無事ではすまなかったろう。術者のジュディの魔力がもう少し高かったら、神獣の唱える最強魔法ジェネシスすら軽く凌駕するダメージをもたらしたに違いない。
「ジュディ! どうせ俺が憎いんなら、俺だけを狙ってこいよ!」
「う、うるさいっ!!」
 再び剣を振り上げて躍りかかってくる。だが、さすがにさんざん立ち回ったうえに大技を駆使したせいか、足取りが重くなり剣も大振りになってきた。やっと少しへばってきたか。こっちももうヘトヘトだけど……。
 ジュディが膝に手を置き、肩で息をしたまま次の攻撃になかなか移れないでいるのを見計らい、朋也は優しく諭すように声をかけた。
「ジュディ……もう、この辺でお開きにしようや? お前が千里を喪ってどれほど悲しいか、どれほど辛いか、それは十分わかってる。でも、こんなことをいくら続けたって、千里は、もう……」
 ジュディはハッとして顔を上げた。アニムスの2色の灯火に照らされた、もう2度と還らない人を振り返る。眼球が飛び出しそうなほどに目を見開き、陸に上がった魚のように口をパクパクさせ、瘧にかかったように身を震わせながら、かすれかかった声でつぶやく。
「ご主人サマ……もう還ってこない……2度と会えない……う……う……」
 そして、彼女は両腕を頭にやって絶叫した。
「うわあああああっ!!!」


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