エデンで生きる道を選んだミオを残し、朋也と千里はジュディの亡骸を伴い、元の世界へ還ってきた。
ほどなく、千里は引っ越していった。俺のことを恨んではいないと言ってくれたが、やっぱり近くにいると彼女のことを思い出して辛いんだろう……。
ジュディは今、近くの1級河川を望む小高い丘の上に立つ寺の墓地に眠っている。彼女が俺のことを好きだったのを千里も知っていて、そばに置いてやって欲しいと託された。以来、こうして俺はほとんど毎週のように彼女のもとへ足を運んでいる。
彼女を幸せにしてやりたかった。俺の手で。でも、できなかった。
いや……ジュディは確かに幸せだった。彼女の死に顔が何よりもその証拠を示していた。彼女は、自分のかけがえのない人を護るために最後の最後まで全力で戦い、死の淵からさえ救い出してみせたのだ。それこそ、自分の命を代償にしてまで。
アニムスを通じて千里の息を吹き返させたのは、彼女自身の命に他ならなかった。自分の人生に満足でなかったはずがない。そう、幸せでなかったはずが……。
寺を降りると、川縁の土手に腰掛け、川向こうに沈む夕日をぼんやりとながめる。不意に後ろのほうでワン! という吠え声が聞こえた。
振り返ると、彼女より一回り小さい雑種の女の子が、興味津々の目でこっちを見つめていた。毛色は茶系だし、耳の端も少し曲がっている程度だが、ちょっぴりだけ彼女の面影を感じる。目元、かな?
胸がズキンとうずく。イヌやネコが嫌いになることは決してなかったが、声を聞いたり姿を見ただけで、居たたまれない思いが心の内に沸き起こるのはどうしようもなかった。
もっとも、自分にイヌ族の匂いが染み付いているのは、この世界に棲む前駆形態のイヌたちにもわかるらしく、初対面でもほとんどの子が挨拶をしに寄ってくる。これも、自分が背負っていくべき十字架だとあきらめているが……。
「駄目よ、クー! ほら」
ニンゲンの女の子だ。中学生かな? ポニーテールがちょっと千里に似ている。クーちゃんはちょっと名残惜しそうにしながらも朋也から離れ、女の子のほうに戻っていった。
朋也は土手の上で次第に小さくなっていく2人の姿をいつまでも目で追い続けた──
the end