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マーヤ: +++

 どう説明したらマーヤを傷つけずに済むのか、正直言って朋也には自信がなかった。彼自身が妖精でない以上、いきなり素性を知らされた本人の立場を解ったふりなんてできない。ただ、自分の気持ちだけははっきりと伝えておきたかった。
「マーヤ……君たちが何者だったにしろ、マーヤはマーヤだ。君が俺の好きな人だってことに変わりはないよ……。俺は別に、身体の大きさや、歳や、種族を理由に君のこと好きになったわけじゃないんだからさ。言っただろ? どんなことがあっても俺は絶対お前のそばにいるって……」
「朋也ぁ……」
 まだ完全に立ち直ったとはいえないが、少しは元気を出してくれたようだ。それにしても……これが〝蚕室〟の由来、ディーヴァの言っていた〝真実〟なのか? それとも、もっと何か裏があるのか?
 それから最上階へ上がるまでの間、一行はなるべく妖精の標本から視線を遠ざけるようにして先を急いだ。マーヤへの配慮もあったが、実際に目を背けざるを得ないほどグロテスクなものも中にはあった。身体の部品がそろっていなかったり、昆虫と妖精の身体が不完全に融合していたり……。一体、この水晶の中に入っているのは本物の妖精なんだろうか? 命がないのは明らかだったが、やっぱりどう見ても作り物には見えない。まさか、無理やり標本にされたわけじゃないだろうな?
 やっと列の終着点にある水晶の柱を過ぎる。中にはほとんどマーヤと変わるところのない、羽を広げた妖精が収められていた。彼女はまるで眠っているようにしか見えなかった。
 最後の1段を昇り、6人はやっと最上階にまでやってきた。足元の階段ばかり見ていた朋也は少しホッとした。
 正面には、階段の柱同様透き通った物質から成る奇妙な形状の祭壇のようなものがあり、その上に輝くばかりの大きな紅と碧の宝玉が浮かんでいる。あれが……本物のアニムス! ミオがかすかにため息を吐くのが聞こえた。エメラルドに比べてまだルビーのほうが若干輝きが鈍いのは、完全に再生する一歩手前でプロセスが停まったせいだろう。
 奥にはフューリーの管理塔で見たテロメア解除装置のような巨大な機械が据え付けられている。そして、紅玉と碧玉の間に、光のメッシュに縛り付けられてもがいている千里がいた。
「ご主人サマ、迎えに来たよっ!」
 ジュディが無我夢中でダッと駆け出す。
「ジュディ! 朋也!」
「大丈夫か、千里!?」
 ジュディがアニムスの台座の周りを手当たり次第にいじりまわしたり蹴飛ばしたりしていると、不意に光の拘束が解かれて、千里はその場にしゃがみこんだ。
 そのまま抱き合い、互いの無事を喜び合う2人を見て、マーヤは満足そうにうなずいた。
「よかったぁ、間に合ってぇ」
 千里とジュディは改めて彼女のほうを向くと、頭を深々と下げた。
「マーヤちゃん、ありがとう。本当にお礼の言葉もないわ」
「ご主人サマが助かったのは、ホントにマーヤのおかげだよ! ボク、この恩は絶対に忘れないからね! ボクにできることがあったら、どんなことでも言ってよ!」
 マーヤは首を横に振りながら答えた。
「ううん。あたしは、ジュディのご主人サマを思う気持ちに動かされただけだものぉ。お礼なんて要らないわよぉ。2人の再会の場面にこうして立ち会えただけで十分……」
「それで……結局、神獣と戦ったの?」
「ああ。マーヤには申し訳なかったけど……。神ってのは本当に頑固で考えを曲げないもんなんだな」
 千里の質問に朋也が答える。
「もう過ぎたことだし、クヨクヨするのはやめましょぉ」
「……そうだな」
 千里も無事に救出できたことだし、早いところこの不気味な蚕室の外に出たいと思った朋也は、それからみんなを急かすように言った。
「さあ、続きはポートグレーに戻ってからにして、とっととここから脱け出そう!」
「ええ♪ みんなぁ、Let's go homeよぉ~♪」
 無邪気に振る舞ってみせているけど、まだショックから抜けきっていないんだろうな……。そうして一行が階段に向かいかけたときだった。
「きゃあああーーっ!!」
 マーヤが突然悲鳴を上げた。


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