仲間たちの警告にもかかわらず、朋也は目を逸らそうとはしなかった。身体は相変わらず動かせなかったが、マーヤへの好意には何の変化もなかった。それがテンプテーションの効果でないことははっきりと自覚できる。彼女はディーヴァのようにボディーラインを強調して誘惑するような真似は一切しなかった(もっとも、マーヤはディーヴァに比べるとペッタンコに近く、そっちのほうの魅力ではかなわなかったが……)。そして、何の命令も発しようとはしなかった。かすかに口を開いて、ただじっと朋也の目を見つめる。朋也も彼女の目をじっと見返した。アルテマウェポンと化したマーヤの、凍りついたように無表情な顔・・七色の光が目まぐるしく入れ替わるその瞳の奥をじっと覗き込む。そこに彼は見た。多数の仲間たちの命を無慈悲に奪った自分の行いを悲しみ、苦しんでいる"彼女"を。自分にとってかけがえのないその人を。無理やり被せられた冷酷な仮面の奥で涙にくれ、もがき苦しんでいる彼女を励まし、労わるように、朋也はじっとその目を見つめ続けた。声も出せず、身振りもできなかったが、ただ視線のみで愛していると伝えようとした。
「……朋……也ぁ……」
"彼女"だ!! たとえ意思系統の一部にしろ、どうやって"席"を確保できたのかは知らないが、間違いなくマーヤの主人格が表に出てきたのだ。ほんのかすかな笑みが口元に浮かぶ。
「……ありがとぉ……あたしのこと……信じてくれてぇ……もう、大丈夫だからぁ……」
≪バカな!? 上位に位置する遺伝子のコードに反して意思を優先させることなどあり得ぬはず!≫
コピーキマイラが驚愕の声を上げる。マーヤは朋也の側を離れると、ルビーのアニムスのほうに向かっていった。
≪#9109557! いや、マーヤ! 何をする気だ!? バカな真似はよせ!! そんなことをするためにお主に特権を授けたわけではないぞ!?≫
神獣は玉座でも見せなかったうろたえた声で彼女を制止しようとした。最後の切札の叛逆は予想外だったのだろう。
「あたし、あなたのこと好きだから……あなたの大切な人たちを……あなたの大好きな世界を、失わせはしない……きっと護ってみせるからぁ!! 警戒レベル5へ移行!!!」
まだ上のレベルがあったのか!? それも1つすっ飛ばしてる……。彼女がこれまでに見せた潜在能力はまだ全開には程遠かったことになる。
マーヤの巨大な金色の羽が強烈に輝きだす。しまいには目も開けられないほどになった。その眩しい光の中で、紅玉に変化が起こった。周りを球形の光の膜が包み込み、ルビーの紅い輝きをすっぽり覆い隠してしまう。球の表面にはまるでツルツルの鏡でできているように周りの風景だけが映されている。一体何が起こったんだ!?