彼女は自分の身の上に起こったことをすべて悟ったようだった。弱々しい笑顔を浮かべて朋也を見上げる。
「エヘヘ……アポトーシスのプログラムが発動しちゃったみたいぃ……。朋也ぁ、お別れだよぉ……」
「そ、そんなっ!! 何とか……何とかならないのかっ!?」
朋也は必死の思いで彼女の肩を揺さぶったが、マーヤは静かに首を横に振った。
「ごめんねぇ、朋也ぁ……」
それから、瞼の裏に彼の姿を焼き付けようとじっと朋也の目を見つめる。
「あたし……生きてるよねぇ? あなたと同じ生命だよねぇ? だって、あなたを愛することができるんだものぉ……」
身体の輪郭がぼやけ、彩りが失われていく。羽の先端は既に消えかかっていた。朋也はそうすることで彼女を世界に引き留めておくことができるかのように、強く抱き締めた。
「ああ……お前は機械なんかじゃない……造りものなんかじゃない……! 俺と同じ生命だよ……」
「朋也ぁ……大好きだよぉ……」
キスを求めてくる。唇が触れ合った瞬間、マーヤは白い光の粒子となって消えた。
朋也は虚しく宙を掻き抱きながら、慟哭の叫びをあげた。
「マー……ヤ……!!!」
パーティーのみなも仲間の死を悼んで呆然と立ち尽くすばかりだった。キマイラの声が響く。
≪……すまぬ。最終プログラムがエラーを引き起こしたと認識したとき、自動的にアポトーシスが発動する仕掛けになっていたのだ。余が疑心暗鬼になりすぎていた……。フェニックスがおれば余を諌めたであろうにな。まったく叡智の神獣失格だ。お主は余の謝罪を受け入れぬであろうが……余の最後の力をもって今一度ゲートを開こう。元の世界へ還るがよい……≫
不意に辺りを覆っていた暗闇が取り払われた。皆既日蝕がいま終わりを告げたのだ。一人の妖精が命を賭けて護り抜いた世界を、太陽はただ何事もなかったかのように照らし出した──