「クルルを見捨ててくなんてできっこない! 俺、彼女と結婚する約束したんだ!」
朋也の発言を聞いて、千里が目を丸くする。
「そ、そうなの!?」
(あきれた……いつの間にそこまで進展してたのかしら? 異世界の女の子を引っ掛けるなんて、朋也も隅に置けないわね~)
彼は仲間たちのほうを振り返って言った。
「俺は1人でも彼女の所へ行く。みんなには無理して付き合ってくれとは言わないよ……」
「何言ってんの! 誰もあんたたちを見捨てるなんて言ってないでしょ? ここまで来たらとことん付き合ってあげるわよ。あんたとは腐れ縁だもんね」
「右に同じだニャ♪」
「クルルにはビスケットの恩があるからね!」
「彼女はこれからのエデンになくてはならない存在だと思うわよぉー?」
「3つのアニムスの帰趨を確かめる上でも、まだ引き返すわけには参りませんわ」
パーティーの仲間たちは口々に同行を申し出てくれた。
「みんな、ありがとう……」
6人はさらに塔の階段を登っていくことにした。神殿本体に入ってから玉座までの空間と違い、ここにはモンスターは出現しなかった。ただ驚いたことに、遠くに輝く銀河や星雲と思われたものは、実はホントに手の届くところを漂っているミニチュアだった。目の前をついと横切ったりもする。見た目は天文写真で見るような銀河そのものだし、模型だとしても何でできてるのかさっぱりわからない。うっかり触ったら、いきなりバシッと音がしてルビーの炎が燃え上がった。
「な、何なんだ、これ!?」
火傷しそうになった手を引っ込めて目をパチクリさせる。
「おそらく、それはアニムスのかけらでしょう」
フィルが答えた。
「かけら??」
彼女の説明では、世界の法則を司るアニムスは、始原の宇宙の歪みから生じたエネルギーが形をとったもので、最初はこんなふうにバラバラだったらしい。それが最終的に紅、碧、蒼の3つの性質を持つ宝玉の形にまとまったのだとか。再生の儀式を執り行ったこのアニムスの塔の中は、どうやらその原初の状態を一時的に再現しようとしているらしい。何だかよくわからないが、ともかく朋也はそれ以降ミニチュア銀河には近づかないことにした。
「ニャハハ♪ 鉱石がザックザクニャ~! これであたいはアニムス長者よん♥」
後ろでミオが欠片をひっぱたいて大量の鉱石を手に入れていた……。
「あらぁ、あたしのは触ったらHP回復してもらっちゃったぁ~♪」
……。どうやら朋也は単に運が悪かっただけらしい。
一行はほどなく塔の最上階に登りつめた。最後の1段に足をかけ、前方を見やったとき、朋也は驚いて立ち止まった。半透明の物質で出来た奇妙な形状の祭壇のようなものの上に、燦然と輝く大きな紅と碧の宝玉が浮かんでいる。あれが本物の……この世界の生命と叡智を司る二つのアニムス! ミオがかすかにため息を吐いたのが聞こえた。だが、朋也が見てびっくりしたのはそちらのほうではなかった。
「クルル!?」
ルビーとエメラルド、2つのアニムスの間にすっくと立ち、両腕を広げている彼女に向かって、朋也は大声を張り上げその名を呼んだ。だが、彼女のほうは返事がない。不安を募らせながら前に進んでいく。
不意にクルルがこちらを振り向いた。朋也たちはその場に釘付けになる。誰もが驚きに目を見張っていた。なぜなら、いつも彼女が胸に着けているブローチが、復活したルビーとエメラルド、2つのアニムスと同等の明るさで燦然と光り輝いていたからだ。強烈な青白い光に下から照らされた彼女の顔は、普段の彼女とは相容れない冷たく不気味な印象を与えた。いつもの赤みを帯びた瞳が、真っ青に染まっている。
「あの胸にある蒼い宝石は……もしや!?」
フィルが手を口元に当てて驚きの声をあげる。誰もが同じことを考えていた。
クルルはゆっくりと目を開き、冷ややかな視線を一行に向けた。
≪私は、クルル。慈愛を司るサファイアのアニムスを守護する神獣、クルル≫