戻る



クルル: ++++

「だったら……彼女が自分を取り戻すまで……俺のこと思い出すまで……戦ってやるっ!!」
 朋也の台詞を聞いて、千里がびっくりして訊く。
「ちょっと、本気なの、朋也!? そんなことしたら、彼女を傷つけるだけじゃないの?」
「……いえ、深層に眠っていた神獣の人格が表層にあった彼女本来の人格を抑えつけているとすれば……元の人格に支配権を取り戻させることも、あるいは可能かもしれません。かなり危険な賭けですが……」
 フィルは少し思案した末、朋也の提案を支持した。
「どのみち、このままだとあたいたちのいた世界は抹消されちゃうんだから、他に選択肢はニャイわね……」
「前のクルルに戻ってくれるんなら、ボクも手伝うよ!」
「あたしもぉ~! 神鳥様とはできれば戦いたくないけどぉ~……」
 他の仲間たちも次々に賛意を表明する。紅玉が再生したといっても、皆既日蝕が終わるまでにはまだ時間がある。それまでの間が勝負だった。
 朋也たちがこの世界を統べる3人の守護神獣との戦闘も辞さないことを見て取ると、3神獣は自らの守護鉱石と同色の強烈なオーラを威嚇するようにほとばしらせた。中でも、最も強烈な青白い輝きを放っているのは、5メートル超級の残りの2人と違い普通のウサギ族の身長しかないサファイアの神獣、クルルだった。
「くっ……ニャンて威圧感ニャの!? 彼女があのお尻の青いガキンチョだったニャンて信じられニャイ!」
 ミオの口ぶりからは、彼女が内心怖気づいていることが伝わってくる。
≪もう1度警告するぞ、朋也よ。お前たちに勝ち目はない。言ってわからねば、身をもって思い知るがよい!≫
 キマイラが前口上を述べる。
≪蒼玉によって再び私が召喚されたということは、エデンに未曾有の危機が訪れたということ。命を奪うのは本意ではありませんが、アニムスは死守せねばなりません。さあ、神獣クルル、ともに世界を護りましょう!≫
 フェニックスも。気立ての優しいといわれる彼女も、いまはアニムスを脅かす者たちに険しい視線を向けている。
≪アニムスには指1本触れさせはしません。エデンを護るのが私の使命……≫
 そして、クルルも。
 朋也は他の2頭を無視し、サファイアの神獣──いや、その仮面の奥に閉じ込められているはずの彼の好きな人だけをじっと見つめて叫んだ。
「クルル。もう1度……もう1度、俺に君の微笑みを見せてくれっ!!」


次ページへ
ページのトップへ戻る