戻る






「こんにゃろ~、よくも朋也を! 前のクルルにはビスケットの恩があるけど、許さないぞ!」
 ジュディが飛燕剣を打ち込む。
「きゃっ!」
 悲鳴とともに、クルルのオーラはまたもとのサファイアの色に戻ってしまった。
「何やってんのよ、バカイヌ! 今の、見てニャかったの!?」
「え?」
 朋也はいったん後退してマーヤとフィルに回復を施してもらった。フィルに向かってつぶやく。
「今のは……」
「ええ。おそらく、主人格が一時的に表層に出てきたのでしょう。催眠状態で意識は働いていないようですが……」
 よし、いけるぞ! これならきっと彼女を取り戻せる! 朋也は俄然やる気が出てきた。
「みんな、バックアップを頼む!」
 そう言うと、また1人で飛び出していく。朋也は蹴りを繰り出すごとに一声ずつ訴えかけた。〝彼女〟に自分の声が届くように。
「クルル! 一緒にユフラファへ帰ろう! おばさんの所へ! みんなの所へ! 一緒に村のみんなのために頑張るって言ったじゃないか! インレのお爺さんたちだって、お前の来るのを楽しみにして待ってるんだぞ!」
 クルルの見た目の表情には何も変化はない。だが、オーラは明らかに揺らぎ始めていた。青とピンクの間で、まるでせめぎ合いをしているかのようだ。
 そうだ、頑張れクルル! 自分を取り戻せ!!
「ウサピョンソバットッ!!」
 オーラの青が強まり神獣モードになったときを見計らい、もう1度スライリ直伝の必殺技を繰り出す。今度は入った。
 一瞬よろめいたクルルの胸から、サファイアの光がほとばしる。な、何だ!?
 キマイラとフェニックスを保護したのと同じ繭だった。そして──3神獣の繭が同時にまばゆい光とともに消失する。彼らは戦闘開始前とまったく同じステータスを取り戻していた……。
≪無駄な足掻きはよせ。3頭の神獣を相手に無限に戦い続けられると思っているのか?≫
 キマイラがたしなめるように口にする。彼らが同時に攻撃してこなかったのは、朋也たちに自らの無力さを思い知らせ、無謀な抵抗をやめさせるためだったのだろう。
「ウソピョォォ~~ン!?」
「駄目だ、3頭ともピンピンしてるよ!」
 ミオは手を下ろすと、すっかりあきらめ顔になって朋也に言った。
「……キマイラの言うとおりだわ。あたいたちには千パーセント勝ち目はニャイ……。悔しいけどね」
 フィルも千里もうなずく。だが──
「……嫌だ! 俺は、あきらめないぞっ!!」
 朋也はクルルに向かって突っ込もうとした。だが、ルビーとエメラルドの守護神獣が彼の行く手を阻む。
≪ターコイズ!≫
≪エメラルド!≫
「ぐわあああっ!!」
 魔法の集中砲火を浴び、その場にくずおれる。
「朋也ッ!!」
 後ろで仲間たちが悲鳴をあげる。だが、それでも朋也は立ち上がって彼女に近づこうとした。
「お願い、朋也! もうやめてっ!! 彼女はもう……私たちの手の届かない神獣になっちゃったのよ……」
 千里の必死の懇願にも彼は耳を貸そうとしなかった。
「……い……嫌だ……俺は……彼女を取り戻すんだ……!」


次ページへ
ページのトップへ戻る