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 途中でつまづいたりよろけたりしながら、朋也はついに神殿の1階の入口にたどり着いた。大きな重い扉を開け、外に飛び出す。
 そこに、彼女はいた。朋也の顔を振り返り、満面に笑みが広がる。
 朋也は無我夢中で駆け寄ると、力いっぱいクルルの華奢な身体を抱きしめた。
「クルル……クルル……!!」
 ひたすら彼女の名を呼ぶことしかできない。
「苦しいよ、朋也。しょうがないなあ、もう……。朋也ったら、まるで甘えん坊の赤ちゃんみたい。クフフ」
 それでも決して嫌な顔はせず、彼の背中に腕を回す。
 朋也はやっと気持ちが落ち着いてきて、耳元でそっとささやいた──

  〝一体、どうやって戻って来れたんだ?〟

  〝彼女が……戻してくれたんだ〟

  〝彼女?〟

  〝もう1人の、クルル……
   小さい時からずっと一緒だった……
   クルルの側で励ましてくれた……
   クルルを支えてくれた……
   クルルに勇気が足りない時は、ちょっとだけ背中を押してくれた……
   悲しいことがあった時は、一緒に泣いてくれた……
   1人で悩んでいる時でも、「クルルは間違ってなんかないよ」って、そっとささやきかけてくれた……
   彼女の声が聞こえなくなったのは、そう……
   あなたに出逢ってから……〟

  〝俺?〟

  〝クルル、あなたに話を聞いてもらいたくて……
   クルルのことわかって欲しくて……
   彼女に尋ねなくなった……
   彼女に頼りきるのはやめにしたんだ
   あなたに認めて欲しかったから〟

  〝そうか……〟

  〝でも、忘れたわけじゃないよ……
   それに彼女も、クルルが独り立ちするのを温かく見守ってくれてた……〟

  〝やっぱり、慈愛の神獣だな〟

  〝クルルがサファイアの封印を解放しようとしたとき
   彼女はもう1度だけクルルに話しかけてくれたんだ……〟

  〝なんて言ったの?〟

  〝彼女が遺してくれた最後の言葉はね……〟

〝『生きて』〟
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