家を出ると、吐く息がすぐ白くなるほど寒かった。空には一面に雲が厚く垂れ込めていたが、その割にひどく明るく感じられる。歩き出しかけて、鼻の上の冷たい感触に立ち止まり、もう1度空を見上げた。雪だ。そういや午後から降りそうだって天気予報で言ってたっけ……。
あれから──4人で異世界エデンに降り立ち、不思議な冒険をしてから、もう半年以上になるのか……。千里も、ミオやジュディも一緒に元の世界へ還り、今ではみな以前と何1つ変わらぬ生活を送っている。この世界にいる限り、心の奥底にしまい込んだ悲しい思い出を振り返ることなんてないだろう──そう思っていたのに……。
──雪が降ると、いつも彼女のことを思い出す
もう1つの世界で出会った、ビスケット作りの好きな女の子
軽やかな足取りで、いつも跳びはねるように歩いていた
鈴の音のような声で笑っていたあの子……
誰かが悲しんでいると放っておけない
誰かが苦しんでいると見て見ぬふりをできない
誰1人不幸にしたくないからと、その小さな身体にみんなの罪を全部背負い込んで逝ってしまった
雪のように真っ白な心を持ったあの子のことを──
the end