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フィル: ----
* ベストエンド不可

「……急いでゲートの所へ行った方がいいな。下手をすると帰れなくなるかも……」
 不安を覚えてそう口にした朋也に、マーヤが口を尖らせて言った。
「早く帰りたい気持ちはわかるけどぉ、フィルがあんな状態なのにほっといていいのぉ?」
「そうだよ、このままじゃ彼女がかわいそうじゃない!」
 クルルも一緒に抗議する。
「……すまないとは思うけど、彼女はこの森のメッセンジャーなんだし、たぶん俺たちにできることはないんじゃないかな……」
 2人から目を背けるようにそう言うと、自分が先頭に立って歩き始める。仕方がないと、仲間たちは朋也の後に従った。
 一行はさらに森の深部を目指して歩を進めた。ときどき道の両側の原生林に目をやる。フィルの口を借りた誰か──としか思えなかった……その誰かとはおそらく神木だろう──は、進めば命はないなんて物騒なことを言っていたが、今のところ何も不穏な動きは感じられない。悪戯であればそれに過ぎたことはないが、だとすればあまりに悪質だし、フィルにそんなことを言わせるのは許しがたい。もっとも、不吉な予感は始終朋也の胸に付きまとっていた。たぶん、たとえゲートに向かったとしてもすんなり還してはもらえないのではないかという気がする……。
 昼前に軽くみんなで腹ごしらえをする。食欲は湧かなかったが、しっかり食べておいたほうがいいと虫が知らせたのだ。メニューはもちろん、クルルのビスケットだ。無事に帰還ということになれば、彼女のビスケットをご馳走になれるのもこれが最後になる。みなフィルのことが気になり、言葉少なだった。ビスケットも砂を噛むようで味がしない(それはもともとなのか……)。
 午後に入って、森の中央に近いゲートの場所まで後少しというところまで来た。周囲の木々もより歳旧りた老木が主を占めるようになる。おそらく森中に張り巡らされたネットワークを通じて、自分たちに関する情報は神木に伝わっているだろう。邪魔は今のところ入っていないが、緊張感がいや増しにも高くなる。
「なんかオバケの森みたいだね……」
 そう表現したのは、奥まで入ってくるのは今回が初めてのクルルだ。
 言われてみて、改めて鬱蒼と茂る木々を見回してみると、確かにおどろおどろしい印象を拭えなかった。樹の幹や頭上に広がる枝葉が、のしかかり、覆い被さって、自分たちを窒息させようと企んでいるのではないかという錯覚に捉われそうになる。朋也自身は森の中で迷子になったときも、木々や森そのものに恐怖を感じたことはなかったのだが……。変わり果てたフィルの有様を目にしたことが、心理的な圧迫感につながっているんだろうか?
 神木のある広場への道との分岐点を過ぎ、その先の角を曲がったところで朋也は立ち尽くした。前方にバリケードよろしく茨とツタと竹の壁がびっしり張り巡らされていたのだ。ローズウォールとアイヴィとバンブーサークルを念入りに重ねがけしたみたいな感じだ……。
「な、何だこれは!?」
「誰かさん、あくまでゲートには行かせたくニャイみたいね……」
 ミオが隣に並んでつぶやく。千里の魔法やジュディの剣でどうにかなるレベルではなかった。壁は森の中までずっと続いており、迂回する余地もない。
「朋也、これじゃとても先へ進めないわ」
 千里が肩をすくめてお手上げのポーズを取る。朋也も認めざるを得なかった。
「しょうがないな……やっぱり神木の所へ行くしかないか……」
 一行はいま来た道を引き返し、分岐点のところを先ほどとは別のほうに曲がった。最後の細い小道を抜け、一行は神木の広場へ到着した。
 創世の時代から生えていたといわれる世界最古の古木は、見た目には以前と変化はなかったが、朋也は神獣ともモンスターとも異なる敵意のようなものを感じ取った。ゆっくり木の前に歩いていく。
 突然、神木の幹の表面がボコボコと盛り上がり、人の形を取り始めた。
「フィ……フィル!?」


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