「いい加減フィルを解放しろ! 俺はあんたの御託を聞きに来たんじゃない! 彼女の声が聞きたいんだ! フィルはあんたの伝令マシンじゃないんだぞ!!」
神木の支配下にあるからといって、なんで彼女に向かって「彼女を返せ」と言わなくちゃならないのかと思うと、ますます腹が立つ……。
しばしの間の後、相変わらず抑揚のない声で神木は答えた。
≪ふぃるトハ何ダ? ソノヨウナ者ハココニハイナイ。我ラハ全ニシテ個、個ニシテ全……在ルノハ森ノ意思ノミ。前ノめっせんじゃーハ少々動物ニ深入リシスギタ。化学的ナ伝達能力ノ貧弱ナオ前達ヘノ伝令トイウ本来ノ目的ヲ逸脱シ、動物ノ心ヤ感情ナドトイウツマラヌモノニウツツヲ抜カシ、アマツサエ自ラニ採リ込モウトマデスル始末ダ。挙句ニハホトンド動物ト同化シテシマッタ。ダカラ……不用ナ要素ハ全テ抹消シタ。めっせんじゃートシテ正シク機能スルヨウニ……≫
朋也は愕然として声を張り上げた。
「何……だと……!? フィルを……消したって!? 彼女の心を……彼女を殺したのかっ!?」
≪我ラニ死トイウ概念ハナイ。殺シ、殺サレルノハオ前達ダケダ。イズレニセヨ、オ前達ヲ向コウノ世界ヘ還スワケニハイカナイ。ものすふぃあノ影響ヲ排除スルタメニハ、彼ノ世界ノ同胞ニ意思ヲ送リ込ンデ連携ヲ取ル必要ガアル。狡知ダケハ回ルオ前タチ動物ノコト、向コウヘ着ケバ彼ノ地ノ非力ナ森ヲ焼キ払ウツモリデアロウ。ココデ消エテモラワネバナラヌ……≫
「冗談じゃないわ!! そんなバカげた真似、私たちがするわけないでしょ!? あんたたち、そんなふざけた理由でエデンばかりか私たちの世界の動物まで皆殺しにする気なの!?」
千里がもう辛抱ならないという体で怒鳴り散らす。
だが、神木にはそれ以上朋也たちと交渉する気などないようだった。
≪……森ノ肥ヤシトナレ……≫
頭上が不意に暗くなる。神木の、そして広場を取り巻くすべての木々の樹冠がざわざわとうごめき、広場の空間を包み込んでいく。
ふと動きに気づいて足元を見やると、地面の下から竹の子が突き出してパーティーを取り囲もうとしていた。フィルの常用する特殊スキル、バンブーサークルだ。
「ちっ……あたいたちを閉じ込める気よ!」
ジュディが剣で次々に薙ぎ払い、ミオもそれを手伝う。だが、竹の檻の伸張速度は2人の作業のそれを上回った。
朋也は怒りに身を震わせ、彼女に贈られた≪神木の杖≫を振りかざした。そう、あのときこの杖を贈ってくれたのはフィルだった。相手に気持ちを伝えることになど一切心を砕かない神木ではなかったのだ。感謝すべきだったのは彼女だった……。
「フィルを……フィルを返せーーっ!!」