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〝思い出せ!!〟

〝思い出して!!〟

 レヴィアタン/ニーナの声とともに、辺りに激しい泡が渦巻く。朋也はもう1度気を失った──

 気が付くと、朋也は水の中を漂っていた。暗く冷たい深海ではない。海面では太陽が千々に砕け散る光の綾となり、木洩れ日のような優しい光を海中に投げかけている。四方に視界を遮るものは何1つない。
 朋也は水の感触を肌に感じた。押し寄せるさまざまな生き物たちの声を聞いた。……ここは……この懐かしい感じは、どこかで──
 思い出した! どうしてこんな大切なことをずっと忘れていたんだろう!? 俺は……!!
「朋也っ!!」
 すぐそばで彼女の声がした。流線型の身体が水壁の向こうから近づいてくる。
「!? ニーナッ!! 君か! 君だったのか!!」
「思い出してくれたのね!?」
 切れ長の目の奥にある、深いブルーに染まった瞳でじっと自分を見つめる彼女にささやきかける。
「ああ。もう2度と君を離さないよ。ずっと一緒だよ……」
「嬉しい!」
 2人は長い嘴を重ね、胸ビレの先でそっと互いの身体を愛撫した。波間に浮上すると、潮を高々と吹き上げる。空も、海も、長い長いときを経て再び廻り逢えた2人を祝福するかのように、どこまでも青く続いていた。
「さあ、行こう 俺たちの海へ!」
「ええ、私たちの海へ!」
 2頭のイルカははるかな水平線に向かって競争するかのように泳ぎ始めた。互いにクルクルともつれ合い、絡み合うように踊りながら、2頭の姿は次第に小さくなり、溶けていった。何人も妨げることのできない自由の海……全ての生命がそこから来て、そこへ還る海へ──



fin☆


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