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 ついにそのときがやってきた──
 朋也の心とは裏腹に、空は雲1つない秋晴れだった。土砂降りで延期にでもなってくれりゃよかったのに……。
 あの日初めてこの世界へやってきたクレメインの森の中のゲートに続く階段の前で、朋也は見送りに来た6人の女の子たちと向き合った。彼女たちに涙を見せまいとグッとこらえながら、別れの挨拶を述べる。
「それじゃあ、みんな……元気でな……」
「頑張ってね! あ、お土産のビスケットはちゃんと持った?」
「どうか気をつけてお帰りくださいね?」
「バイバァ~イ♪」
「頼んだよ! 敦君やセバスチャンにもよろしくね!」
「しっかりやんなさいよ!」
「Good luck, 朋也♥」
 みんな実にあっけらかんとしている。湿っぽい別れにはすまいと気遣ってくれているんだろう。ホントはきっと、泣いてすがって自分を引き留めたいところをグッと我慢しているに違いない。だったら、無理なんかしなくていいのに。いや、しないで欲しいのに……。
 朋也が後ろ髪を引かれる思いで階段に足をかけたとき、不意に鳥の羽ばたくような音がして、大きな黒い影がそばに舞い降りた。
「リ、リルケ!?」
 そう、これまで度々朋也たちの行動を妨害していたカラス族のキマイラの部下だった。でも、彼女は確か、レゴラス神殿でカイトに──
「き、君、レゴラスで死んでたはずじゃ!?」
「何の話だ? 私はこのとおり死んでなどいない。カラス違いじゃないのか?」
 ……。肩をすくめてから、リルケは上機嫌で朋也の肩をたたいた。
「それにしても、朋也といったか。お前、私たちのエデンを護るために向こうの世界で戦ってくれるそうだな?  お前がこれほど見上げた男だとは思わなかったぞ。あらためて惚れ直したくらいだ♪ そういうわけだから、私もこうして見送りに参上してやったのだ」
 え、そうだったの?
「じゃあ、せめて別れのキスでも──」
「調子に乗るな!」
 鳩尾に肘鉄を食らう。軽いジョークだったのに……。
 朋也は改めて、1歩ずつゲートの転送台への階段を昇っていった。1段上がるごとに足が重くなっていく。断頭台にでも上がるような気分だ(--;; 後3歩、2歩……最後の一段に来て、どうしても足を持ち上げる気になれず、そこで立ち止まってしまう。
「何グズグズしてんのよ? さっさと行けば? ゲート閉まっちゃうわよ?」
 千里が発破をかける……。
 朋也はおそるおそる階下の女の子たちを振り返り、哀願するように言った。
「……やっぱり俺が還んなきゃ駄目?」
「当たり前でしょ!? あんたが行かなかったら誰がエデンを護るのよ? キマイラとの約束、忘れたの? 私たちの生活がかかってるんですからねっ!」
「男だろっ!?」
「何のためにわざわざ見送りに来てやったと思っているのだ!?」
 途端にブーイングの嵐が巻き起こる……。朋也は最後の1段を昇りきった。
「みんな……さよなら……」
 今生の別れだというのに、朋也が最後に女の子に見せたのはどうしようもなく情けない泣き笑い顔になってしまった。3色の光に包まれて、彼は元への世界へと還っていった……。
 千里は大きく1つため息を吐き、両手をはたきながら言った。
「やれやれ、これで1つ片付いた、と。まだ整理する荷物が残ってるし、早く腰を落ち着けて新生活を始められるようにしないとね……」
「ご主人サマ~、ボクお腹空いちゃった」
 ジュディが指をくわえて千里を見る。
「じゃあ、先にご飯にしよっか?」
「わぁ~い♪」
「お料理作るの? だったらクルルに任せて、任せて!」
「私もお手伝いしましょう」
「あたし、食べる人ぉ~♪」
「リルケもどう? 一緒にご飯食べる?」
「む……では、いただくとしようか」
 笑いさざめきながらクレメインのゲートを後にする女の子たち。ミオはふと1人だけ立ち止まり、誰もいなくなったゲートの上を振り返ってつぶやいた。
「ふみゅ~……大丈夫かニャ~……ま、いっか♪」
 朋也のことだ、きっと新しい恋ネコを見つけてくれるだろう。男の子かもしれないけど。その子が自分と同じように幸せになれるように、彼を幸せにしてくれるようにと祈りながら、ミオは仲間たちに追い着こうと駆け出していった──



fin☆


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