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 朋也たちは鯨夢の中ではなく、石柱に囲まれたタイクーン神殿の中央にいた。
 レヴィアタンはいない。鯨夢の一番深い底に送り込まれたので、浮上するまでに時間がかかるのだろう。まあ、神鯨ならいずれ自力で脱出できたに違いないが。
 クルル、マーヤ、ニーナの3人は無事に救出され、彼の周りにいる。鯨夢はヒト・動物の見る夢と同じく(?)階層構造になっていて、彼女たちが閉じ込められたのはすぐ下の第2階層だったようだ。だから、キマイラが介入することも比較的容易だったのだろう。
 ミオは朋也の腕の中で、彼の胸にしがみつきながら泣いていた。
「……悔しい……また、あんたに負けちった……神鯨さえ手玉に取ってやったのに……」
 しゃくりあげる彼女が落ち着くのを少し待ってから、朋也はなだめるように彼女の髪をそっと梳りながら、詰問口調にならないよう優しく尋ねた。
「なあ、ミオ……どうしてそこまでサファイアのアニムスにこだわるんだ? 宇宙をすべて支配したいのかい? そんなことしたって、幸せになれるとは限らないだろ。少なくとも俺は、おまえと一緒に暮らせる何気ない日常のほうがよっぽど幸せに感じるよ。もし、おまえが今幸せでないと感じているなら、おまえを満足させてやれなくてすまないと思ってる。けど、俺、自分が幸せすぎて、お前が一体何を不満に感じてるのか、よくわからないんだ。だから、教えてくれないか? 俺にできることなら、おまえのためにどんなことだってしてやるから……」
「ううん……そうじゃニャイの……」
 ミオは首を横に振ってから朋也を見上げた。
「あたいは今、朋也のそばにいられてとっても幸せよ。でも──」
 そこで彼女は大きな恐怖に襲われたようにおののきながら自身の両手を掻き抱いた。
「無数の宇宙のどれかには、幸せにニャれずに人生を終わったあたいがいるかもしれニャイ……。あの戦いで力尽きて元の姿に戻っちゃったり、死んじゃったあたいがいるかも……。ひょっとしたら、エデンに来ることもニャく、病気や事故で死んじゃったり、あんたに拾われず、出会うことさえできニャかったあたいがいるかもしれニャイ……。そう思うと、いたたまれニャくて……。あたいはすべての宇宙で、すべての時空で、幸せにニャりたいの! あんたと!! だから……!」
 朋也は束の間出会った神獣クルルの言葉を思い返した。〝深すぎる愛〟か……本当に欲張りなんだな、ミオは……。
 彼は彼女のほっそりした身体に回した腕に力を込め、赤ん坊をあやすように耳元でささやきかけた。
「ミオ……大丈夫だよ……。おまえは何も心配しなくていい……。サファイアの力なんかなくたって、どの宇宙だろうと、どの時空だろうと、俺はおまえのことを必ず、全力で、幸せにしてみせるから! だって、俺は……無限の宇宙を全部足し合わせたより、おまえのことを愛してるから!!」
「朋也……」
 ミオは朋也の目をじっと見つめてきた。彼もまっすぐ見つめ返す。瞳の奥の奥までダイブするように。そのまま2人の目の距離が1センチ、また1センチと近づいていき、やがて唇と唇が触れ合おうとしたそのとき、マーヤがポンポンと手をたたいて2人を制止した。
「ストォォーーップ!! 海の底までお熱いのも結構だけどぉ、続きはおうちに帰ってからにしてねぇ~」
「どうでもいいけど、早くクルルのブローチ返してよ!」
 クルルも口をへの字に曲げながらミオに訴える。
 そういや、彼女のブローチのことをすっかり忘れてた。分身のクルルが去ってしまったので、今はもうアニムスではなく、何の変哲もないただの宝石付きのアクセサリーのはずだけど……。
「あら、そんニャとこにいたの? 3分の1神獣のガキンチョさん。無限再生は便利だったけど、やっぱり攻撃力がニャイといまひとつよねえ。せっかくだから、このブローチはあたいがもらっとくわ♥ 換金したら、そこそこいい値が付きそうだし♪」
「ダメだってば~~!!」
 クルルはピョンピョン跳ねて抗議しながら、ミオの手からブローチを奪い返そうとする。ミオはひらりと身をかわし、神殿の中を逃げ回った。
「おい、ミオ……それはやっぱり返してあげようよ?」
 朋也がやんわりと諌めようとすると、ミオはあかんべえをしながら答えた。
「やあよ♪ だって、アニムスをあきらめたら、あたいのわがまま全部聞いてくれるんでしょ?」
「ミオ~~(T_T)」
 こうして、ミオと朋也の冒険第2幕は大団円(?)のうちに幕を閉じたのだった──



fin☆


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