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 気がつくと、朋也と千里は家の近くの雑木林の中にいた。
 辺りは静寂に包まれていた。時折風にそよぐ葉擦れの音や、遠くを走る電車の音以外、何も聞こえない。
 部屋中を所狭しと駆けめぐっていた5つ子たちの声も、それを叱るゲドのだみ声も、ミオとジュディのコミカルなやりとりも、もう聞こえない。
 そばにいるのが当たり前だった愛する家族・ミオとジュディの2人の姿は、もうどこにも見えない。
 千里の頬をつーっと涙が伝った。
「ジュディ……」
「泣くなって言ってもやっぱり無理か……」
 かくいう朋也も涙腺が限界に来ていたのだが。
「いいのよ、これは。だって、悲しくて出る涙じゃなくて、うれしいときの涙なんだもの。そういうときはいくら泣いてもいいの……」
 千里は涙を振り払うと、笑顔で答えた。無理に作ったわけではない。心からの笑みを浮かべながら。
 そして、彼女は梢の先に広がる青い空を見上げた。2人が暮らしているのは、こことはまったく別の、はるか遠く隔たった異世界の空の下だ。けれど、2人もやっぱり同じようにこの青い空をながめている気がした。4人の心は通じている気がした。
「うん……」
 千里の横顔を見ながら、朋也もうなずく。
 3年前にも思ったことだが、彼女は本当に芯の強い女性だ。そして、今日の彼女はいつにも増して美しいと彼は感じた。
 2人は我が家に向かって歩き出した。今ではミオとジュディの2人と同じくらい大切になった家族のみんなが待っている。
 草に覆われた小道をゆっくり歩きながら、千里が語りかけてきた。
「ねえ、朋也……もし、私たちの住むこの世界がエデンのようにだれもが平和に暮らせる世界になったら──そのときはきっと、ジュディやミオちゃん、こどもたちと会えるまで、3年も待たなくてすむようになると思うの。2年後に、1年後に……そして、いつかは毎日会えるようになる日がきっと来ると思うの! だから、それまでがんばりましょう!」
「ああ……俺もそう信じるよ」
「なんか、そう考えたら、アイディアが次から次に沸いてきちゃった♪ そのために、私は小説を書き続けるわ! 書いて書いて書きまくってやるわ! あの子たちのために……そして、2つの世界の未来のために……」
 希望に満ちあふれた千里の声を聞いているうちに、朋也も勇気が沸いてくる気がした。
「だから、その日が来るまで、朋也は朋也でガンガン働いてしっかり私を支えてちょうだいね♥」
「……も、もちろんさ、ハハ」
 一拍遅れて朋也が答える。まあ、すでに稼ぎは彼女の方がいいし、いずれは専業主夫として彼女を支えるのも悪くないと、彼自身は考えていたが。
「さあ、おうちへ帰りましょう! やることたくさんあるんだし!」
 そう言って足を早める。お散歩から帰るときのワンコたちのように。彼女の顔にもう涙はない。
 3年後にはきっと、もっとたくさんの笑顔を見れるに違いない。
 朋也も千里の後を追って家路を急いだ。



fin☆


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