「うそつけ、ミオの方がどう見たってジュディより百倍はカワイイねっ!」
ジュディがかわいくないとは言わないが、率直に言って比較にならない、と朋也。
「いいえっ! ジュディの方がミオちゃんより千倍カワイイわよ!」
「何をぅ!? だったらミオの方が一万倍カワイイぞ!」
「ジュディの方が十万倍カワイイもん!」
「ミオは一億倍だ!」
「跳んだわね……。じゃ、ジュディに一兆倍!」
オークションかよ……。む~、一兆より大きな数字はなんだ? 我ながらこどもじみてるとは思うが……実際、小学校時代よりずっと幼稚なやりとりをしているのだが、それでもムキになってしまう朋也であった。
「だ、だったら、ミオの方がアボガドロ数倍カワイイのだっ!」
「何よそれ? 今日の化学? あんたなんて書いたの? 言ってみなさいよ?」
「えっとぉ~……ひとよひとよにひとみごろ……」
「ルート2じゃん(--;; あんた化学捨てたの? よっぽど補習が好きなのね。大体、それ一兆より全然小さいわよ?」
「うるさいっ! じゃあ、お前が言ってみろっ!」
「6.02×10の23乗よ。補習はあんた一人で受けてちょーだいね♪」
勝ち誇ったように即答する。
「むぐぐ……お前に言えてもジュディにゃ言えまい」
「なんでジュディがそんなの覚えなきゃいけないのよ? じゃあ、ミオちゃんは言えんの!?」
「もちろん! なあ、ミオ、アボガドロ数言ってみ?」
「にゃー」
「ほれみろ。これはネコ語で6.02×10の23乗とゆー意味なのだ」
「アホクサ……。ミオちゃん、ルート2は?」
「にゃー」
「同じじゃないの……」
「違うんだよ、今のわっっ(T_T)」
千里はうんざりした調子で首を振った。
「はー、もうバカらしくてやってらんないわ……。ジュディ! あんな変態ネコマニア少年はほっといて、さっさとお家へ入ろ♪」
「誰が変態かっ!」
朋也の抗議も無視し、千里は家に向かって歩き出した。ジュディは「もっと遊びたいのに」という顔で朋也たちの方を振り返りつつも、千里の後を追う。
二人の姿が門の向こうに消えると、朋也は「俺たちも帰ろうか」と、ミオを振り返った。と……一緒に見送っていたミオは、いつもの優美な屈伸運動をした後、我が家の方角ではなく、今度は公園の反対側に向かって歩き出した。
「あ、あれれ? また出かけるの?(T_T)」
どうやら千里の指摘したとおり、朋也を出迎えたわけではなく、通りすがりに挨拶してやったにすぎなかったらしい。
「晩飯までには帰ってこいよ~! 車には十分気をつけるんだぞ~~! ガラの悪いオスネコと付き合っちゃ駄目だからな~~~!!」
ミオの姿が小さくなり、スラリとした尻尾の先が茂みの向こうに隠れるまで、朋也は見送らずにはいられなかった。そして、彼女が消えた後、手を下ろして深いため息を吐いた。
「はぁ……」