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ミオ: ---
ALL: --

「そりゃ、金で済むんだったらいくらでも払うさ! 貯金全部はたいても、借金してでも、強盗してだって、必ず取り戻す!!」
 つい語気を強めてしまった。ちょっと怒ってるように聞こえたかもしれない。
「そうだよね。ごめんね、変なこと聞いて……」
 謝った後、千里はそっと付け加えた。
「ミオちゃんなら、きっと見つかるよ」
 何の確証があるわけでもないけれど、それでも彼女の温かい励ましに朋也はとても勇気づけられた。こんなに優しい笑顔は何年も見てない気がするな。
 それから3人は、まだ重機も火も入っていない雑木林の境界に沿って歩き続けた。計画に狂いが生じたおかげで生き延びた小ぢんまりとした緑は、ニュータウンができる前に一帯に棲んでいた野生動物の避難場所になっていた。野生動物といったって、に猛獣がいるわけでもなく、キツネやモグラやキジやフクロウ、一昔前には当たり前に見られた動物たちだ。ノライヌ、ネコたちや新参者のアライグマ、フェレットなんかも逃げ込んでいるかもしれない。土地は既に公団の手に渡っているため、いずれは伐り払われてこのちっぽけな最後の楽園もなくなってしまうのだろうが……。
「あ、タラの木だよ、これ。芽はまだついてるかな? てんぷらにすると美味しいんだよね~♥」
「ミオを捜してくれるんじゃなかったのかよ?」
「ハハ、ごめんごめん」
 どうやら他の発見者はいなかったと見え、タラの芽も伸びっぱなしだった。住宅地からそれほど離れていないのだが、工事の中断した造成地が山菜の穴場と知って足を向ける者などいないのだろう。
 朋也は林の境界にまばらに生えた低木の茂み越しに、奥の方に目を凝らした。背後から照らす街の灯りをみんな吸い込んでしまうほどの闇が覆っている。小さいといっても夜に訪れる林は、何かこの世ならざる者の密やかな息吹が聞こえてくるようで、踏み込むのには躊躇を覚えてしまう。ニンゲンという動物が文明を手に入れる前からずっと引き摺ってきた始原の恐怖とでもいうのだろうか。2人の会話も途切れがちだった。
「! ウゥゥ」
 草むらの臭いを嗅いでいたジュディが不意に足を止めて低いうなり声を上げた。朋也と千里も緊張して身構える。千里は灯を消した。ジュディは林の奥に神経を集中していた。
 何かが光っている。誰か人がいるのだろうか──と思ったが、その光は人工のものには思えなかった。おぼろげな光は1ヵ所にとどまることなく、ゆっくりフラフラと動きながら不規則に明滅し、しかも様々に変色しているように見えた。背筋に冷たいものが走る。千里もジュディに寄り添って身を強張らせていた。
「何かしら? まさか……人魂じゃないわよね?」
 千里が押し殺した声でささやく。


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