訊きたいことなんて両手の指でも収まらないけど──もちろん、最初に訊くべきなのはミオの消息だ。
「実はネコを捜してるんだけど、見かけなかったかな? ミオっていう名前のメスで、歳は1歳9ヵ月、体毛は赤茶、雑種だけど和猫にアメショが混じってるみたいだ。捨て猫だったから正確にはわからないけどね。体重は4キロ弱、俺が言うのもなんだけど、プロポーションは悪くないぜ? 食べ物の好き嫌いはちょっと激しくて、1週間同じメニューだと見向きもしないんだよね。中では、煮干や炒り子が好物かな。麺類も割りと好きだね、そうめんとか。お気に入りの玩具はネコジャラシ、キャッチボールも名手なんだぜ? 時々ゴキブリを捕まえてきちゃうのは困りものだけど……。運動神経は抜群で、食器棚の上や天袋くらい一息で跳び登れちゃうよ。頭脳の方だって誰にも負けないぞ。引き戸式でもノブ式でもドアを独りで開けちゃうんだ! まだ2歳前なのに、洞察力を働かせてドアの開く原理を見抜いたんだぜ? な、な、天才だろ?? それから──」
自分でも気が付かないうちに親ばかモードに移行していた朋也に、おしゃべり好きの妖精も唖然となった。
「ちょ、ちょっとちょっとタ・ン・マァァ~~!」
「朋也にミオちゃんの自慢話を始めさせたら夜が明けても終わんないわよ?」
千里が解説を加える。
「あなたがネコちゃんを大事にしてることはよぉ~くわかったけどぉ~、こっちの世界に来てるとしたら簡単には見つからないでしょうねぇ~……」
「え? どうしてだい?」
怪訝そうに問い返す朋也。
「うぅ~んとぉ、そうねぇ~……やっぱり一から説明した方がいいと思うなぁ~。その子がどうしてこの世界へやってきたか、ここでどうしているか、知りたいんでしょぉ~? だったら、まずこの世界:《エデン》のことを理解してもらわなくっちゃぁ~」
千里もうなずく。
「そうね。私もこの世界のこと、知りたいわ。あなたたちがなぜイヌやネコたちを連れてきてるのか──避難っていうのはどういう意味なのか。さっきのバケモノは何なのか。そもそもここはどこなのか。ちなみに、さっき言ってたモノスフィアっていうのは私たちの星、地球のことを指すのよね?」
マーヤは小難しげな顔をしながら、首をひねった。
「ううんとぉ……どうやって、説明したらいいのかなぁ~? そういう意味でいうとねぇ、ここは地球なんだよぉ~」
「ええっ!?」
2人して驚きの声を上げる。
「地球でわかんなきゃあ、いわゆる太陽系の第3惑星ねぇ~」
なんかバカにされてる気がしないでもない。
「じゃあ、どっかの国の辺境とかにあるのかい? まさか日本じゃないんだろ??」
UFOやらワープ装置というのも非現実的かもしれないが、地球上に妖精やら化けモノが出没する場所が存在するってのも、それはそれで突拍子もない話だ。時間もいきなりとんだし。
マーヤは腕組みをしながらうなった。
「そうじゃなくってねぇ~……あなたたちにエデンの説明をするとなると、やっぱりこの世界が二つに割れたいきさつから話さないと駄目だよねぇ~。ちょぉーっと長くなっちゃうけど、あたしが特別に講義したげるからぁ、エデンのこと知りたいんだったらしっかり聴いててちょーだいねぇ~。それがネコちゃん捜索の手がかりにもなると思うしぃ~」
以下は、彼女が説明してくれた、朋也たちの世界が成立するに至った顛末だ──