presented by Ivy Maze
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「ひゃああぁっ!? ちょっとやだぁ~、こっち来ないでよぉ~! さっきのは冗談だってばぁ~!」
 あわてて傘を装着し、マーヤのそばへ駆け寄る。今度も抜身は千里の方が素早かった。彼女がキノコオバケに電撃の雨を降らせると、さっきのやつと同様煙のように消え失せた。
「ふぃ~~、びっくりしたぁ~! 一体どうなってんのかしらぁ??」
「もともと気休めのお守りだったんじゃないの?」
 朋也の指摘にマーヤはふくれて言い返した。
「そんなことないもぉん! あたしも、一族のみんなも、今までこのコンパクト持ってて襲われたことなんて一度もないんだよぉー!?」
「それじゃあ……やっぱり原因は私たち?」
「……たぶん」
 千里の推理にマーヤがうなずく。モンスターにも住民にも嫌われているとなると、予期せぬ異世界の小旅行はあまり快適なものにはなりそうもない。
 日ごろ使っている魔除けの効果がないとわかると、さすがに彼女も危険に同意して考えを改めた。
「しょうがないなぁ~、今夜はみんなでここに泊まろっかぁ~? ゲートには神獣様の結界が張ってあるから、いくらなんでも入ってこれないはずだよぉ~」
「泊まるったって、何にもないぞ?」
 この場所がどこの気候帯にあり、今がどの季節なのかわからないが、夜の森はそのままの格好で過ごせる気温ではなかった。
「今度こそ任せてちょーだぁい♪」
 マーヤは宝玉の台座の前に立つと、羽の光を点滅させた。まるで光のパターンで誰かと会話してるみたいだ。不意に台座の隣のブロックが下降して、収納庫らしき扉が現れた。中には数式の寝袋と非常食が入っていた。
 くぼみに腰かけ、初めてのエデンの食物を口にする。これも乾燥酵母の加工品らしいが、不思議な味がした。ジュディも美味しそうに頬張っている。千里曰く、彼女はもともと好き嫌いせず何でも食べる子だったが。ミオならあんまり食指が動かなそうだな。
 寝袋にはかわいらしい妖精用(背中側に羽を出す穴もついている)と普通の住民用の2種類あった。住民用は朋也たちニンゲンにちょうどいいサイズで、見た感じもこちらの世界のそれとあまり変わらない。成熟形態の基本的な体格はどの種族も変わらないとみえる。
 抵抗は少しあったが、着替えもないので上着だけ脱いで制服のズボンのまま寝袋に入る。千里はセーラー服のまま。片手を出してジュディをしっかり抱いている。
「朝になったら町に降りましょぉ~。日が暮れるまでには麓に近いビスタの町につけるよぉ~」
 ……。てことは、夜通し歩かせるつもりだったのか?
「それじゃあ、おやすみぃ~♪」
 朋也が問いを発する間もなく、マーヤは宣言するとたちまち寝入ってしまった。
 すぐには寝付かれず、朋也は木立の頂に囲まれた夜空を見上げた。星空はいつも見ているそれと違わないようだ。もっとも、向こうの世界の都会と違い、天の川もくっきりと見える。彼は星の名前まで言い当てられないが、あそこにあるのは夏の大三角じゃないかと思った。とすると、今は季節でいうと秋口というところか。
 ジュディは千里のそばにぴったり身を寄せて丸くなっている。彼女さえいればどこでも寝られるんだろう。千里は……眠れているのかどうかわからない。一応女の子なんだし、寝顔をジロジロながめるわけにもいかないけど。
 幼なじみといったって、もちろん2人で外泊するような機会は今までなかった。俺についてきたことを後悔してるかな? 早く家に帰りたいだろうな……。まあ、俺自身は、勉強、勉強とうるさく言われない分せいせいするけど。いつも彼女になかなか素直に頭を下げることができないけど、元の世界へ帰ったらきちんと謝らなきゃな。
 再び星空の天井を見上げながら、ミオのことを思う。彼女はきっと無事でいるはずだ。早く会いたい。でも、彼女が成熟形態、彼や千里と同じ姿をとっているとしたら……。一度そんな彼女に会ってみたいと思う一方で、その姿になったミオに会うのはとても怖い気もする。
 いつの間にか眠りに落ちていた彼の夢の中に、ミオは出てきた。人の姿で。でも、顔までははっきりとわからなかった──


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