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ミオ: +
千里: ++
ジュディ: +
マーヤ: +
フィル: +
* 千里エンドフラグ(-)

 千里とジュディ、どちらも助けなくちゃならない──それはわかってる。あのゲドとかいうオスイヌ、目が据わってたし、前駆形態のジュディばかりかマーヤやフィルにまで色目を使うようなやつだ。早く手を打たないと、千里が何をされるかわかったもんじゃない。
 だが、マーヤはエデンではまだモンスターの仕業以外の殺人事件は起こっていないと言っていた。彼がいくらワルに見えても、千里を殺すことまでできるとは思えなかった。それに対して、ジュディのほうは文字通り生死がかかっている……。
 くっ……! 朋也は千里が連れていかれた崖の上を振り仰いだ。千里、すまんっ! 今はとにかくジュディの命を救うことを優先しなくては! 彼女もそれを望んでいるはずだろう。頼む、どうか無事でいてくれ!!
 そこへ、フィルが這い上がるのを手伝っていたマーヤがやってきた。
「と、朋也ぁーっ! ど、ど、どうしよぉ~~!?」
「俺はこれから谷底に降りてジュディを探し出す。すまないが、マーヤはあのゲドってやつの後を尾けてくれないか? ただし、無理はするなよ?」
「う、うん、わかったぁ」
 朋也の指示にうなずくと、マーヤはフワリと舞い上がり、吊り橋から続く道の向こうへ消えた。
 さて、急がないと! 左右を見てなんとか下まで降りられる場所はないかと探す。足場になる岩が続いていそうなルートの目星をつけると、彼は早速岩壁にしがみつくようにしながら崖下を目指した。この際、高いところから下りるのは苦手だなんて言ってられない。
 一歩ずつ慎重に足を下ろして足場の固さを確かめながら、ふとこの間の出来事を振り返る。一体、あのゲドとかいうイヌ族はどうして千里をさらったんだろう? 単なるやぶれかぶれではなさそうだ。彼はさっきの台詞の中で「ボス」の命令とかいう言葉を口にしていた。「兄貴」がどうのとも。何らかの集団の一員として行動しているのは間違いない。
 何より気になるのは、ニンゲン、すなわち朋也と千里がエデンに来ていることを彼が知っていたことだ。2人がエデンに迷い込んだのは一種の事故だとのマーヤの説明が正しければ、住民が事前に情報をつかむことなどあり得ないはずだが……。
 途中、木の枝にひっかかっていた千里のスタンガンを見つける。遠ければ後回しにするところだが、幸いすぐ手の届くところにあったので回収しておく。その場所から下を見下ろす。
川のすぐそばにグレーの点が見えた。ジュディに違いない。朋也は降りる足を速めた。
 何度も足を踏み外しそうになりながらも、朋也はようやく谷底にたどり着いた。下は小さな石の河原だった。谷川の幅はそれほど広くはない。最後の3メートルほどは一息に飛び降りると、朋也は脇目も振らずジュディのもとに駆け寄った。
 彼女はぐったりと横たわっていた。足は水に漬かったままだ。自力で岸までたどり着いたんだろうか。おそるおそる触れてみるとまだ温かかった。鼻のそばに手をやるとかすかに息を感じる。生きてるぞ!
 だが、肋の2、3本折れていても不思議はない。動かさないほうがいいのだろうが、水に濡れたままにしておくわけにもいかないので、なるべく静かに抱き上げて運び出す。河原の草が生えて平らな場所を選び、自分の制服を脱いで敷くと、その上にジュディの身体を慎重に横たえた。
 口元についた血を拭い、濡れた身体をそっと拭いてやる。バックパックからゲートで仕入れた救急薬を取り出す──が、そこで彼は頭を抱えてうめいた。ジュディの容態と対処法が自分では判断できない。内臓がどこか傷ついているのか? この中のどの薬が役に立つのか?
 しまった、重大な判断ミスだ。マーヤだったら動物のリハビリの経験もあるし、治癒の魔法も使えたのに。くそっ、なんて俺はバカなんだ……。
 絶望に暮れる朋也の傍らにフィルが現れた。
「朋也さん! すみません、遅れてしまって」
「フィル!!」
 よかった、彼女ならヒーリングの魔法を使える。ほっと胸を撫で下ろすと同時に、ふと疑問が沸く。どうやって谷底まで降りてきたんだろう? 朋也でさえ閉口したのに、その長いローブ姿で崖を這い降りるのはほとんど不可能に近いんじゃないか?
 訊くと、森の精である彼女は木の立っている場所へは〝ワープ〟できるのだという。マーヤに崩れかけた吊り橋から這い上がるのを補助してもらった後、崖のところどころに生える潅木伝いにここまで下りてきたらしい。
「ありがとうございます、ここまでしていただいて。後は私にお任せください」
 フィルはジュディの近くに寄り、両手をかざすと呪文を詠唱し始めた。掌から青緑色の光がチカチカと舞い散り、彼女の身体に降りかかる。
 俺にも回復の魔法やスキルが使えていれば……。だが、今の朋也には両手を握り締めてフィルの魔法が効いてくれることを祈ることしかできなかった。そんな彼の様子を見て気を遣ってか、フィルが声をかける。
「朋也さん、ジュディを抱いてあげてくれませんか? 親しい方が付き添っている方が効果が上がりますから」
 うなずくと、膝の上にジュディの身体をそっと抱きかかえる。千里だったら効果も断然違ったろうけど……。その彼女がそばにいない今、代わりになってやれるのは自分しかいなかった。
「ジュディ、しっかりしろ……千里に心配かけるなよな?」
 腫れ物に触れるようにそっと毛皮をなでながら、ささやくように話しかける。
 そこへマーヤが舞い戻ってきた。
「ごめん、朋也ぁ。見失っちゃったよぉ~~」
 彼女の羽はトンボではなくチョウのタイプで、スピードを出すことはできない。成熟形態のイヌ族の脚力には追い着けなかったのだろう。ゲドがボスだか兄貴だかと呼んだ連中が、部下よりまともで千里のことを丁重に扱ってくれるのを、朋也は心から祈った。
「これ、道の途中で拾ったんだけどぉ、たぶん千里のじゃあないかなぁ?」
 マーヤが差し出したのはペンダントだった。千里が身に着けているのに朋也は気づかなかったが、制服のスカーフの下に着けていたのかもしれない。ゲドが千里を担ぎ直すか何かして、その時に落っこちたに違いない。蓋を開ければ中にはきっと写真が飾ってあるのだろうが、誰が写っているかはおおよそ察しがついた。
 朋也はそれを受け取ると、彼女を責めていないと示すようにマーヤに労いの言葉をかける。
「ありがとう、マーヤ。急いで戻ってきてくれたところを申し訳ないんだけど、フィルを手伝ってくれないか?」
 マーヤはうなずくと、すぐさまジュディを挟んでフィルと向き合い、呪文を詠唱し始めた。
 どれくらいの時間が経過しただろうか。フィルとマーヤはずっとヒーリングをかけ続けているが、ジュディはピクリとも動かない。それどころか、朋也には彼女の身体が次第に冷たくなっていくようにさえ感じた。
「どうしよぉ~、何回も魔法かけてるのに効いてないみたいぃ……」
「いけない……このままの状態が続くと危険ですわ」
 あまり表情を面に出さないフィルの顔にも焦りの色が浮かぶ。マーヤは半泣き状態だ。2人とも魔法を使いっぱなしで相当疲れているに違いないが。
「ジュディィ、お願いだから目を覚ましてよぉ~……」
 朋也の手のひらに冷たい汗がにじむ。今まで神仏に祈りを捧げたことなど一度もなかったが、このときばかりは、どんな神でもいいからジュディを助けてくれ!と彼は心の中で必死に叫んだ。
 そうだ、この世界には一族の守護神が実際にいるんじゃないか! だったらお願いだ、イヌ族の神様!! 彼女の命を救ってくれ!! ジュディは、俺と千里の大切な──
 そのとき、ジュディの身体がほのかな柔らかい黄色の光に包まれた。その光は次第に輝きを増し、ついには朋也たちが目を開けていられないほど強烈な輝きとなって奔った。一体、何が起こったんだ!?



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