ニャ? 戸惑う暇もなく、彼女はいきなり朋也たちに襲いかかってきた。彼の頬を鋭い爪の先がかすめ、さっと赤い糸を引く。もしかして本気なのか!?
「お、おい、ちょっと待ってくれ!」
朋也は攻撃を防ぎつつ、闘う意思などないことを必死に伝えようとするが、正体不明の女の子は朋也に口を開く機会すら与えようとせず、次から次へと左手を繰り出してくる。「あんたたち」とは言ったが、彼女の標的は明らかに朋也1人だった。時折まるでからかうようにジュディには軽くジャブを放つものの、他の2人はまるで相手にしない。
爪を武器にしているということは、彼女はネコ族なのだろう。見た目からしていかにもネコ族の女性らしい。もっとも、軽快なフットワークで一瞬たりともじっとしておらず、朋也にはまともに彼女の姿を捉えることさえできなかったが。
ネコ族……まさか!?
「き、君は一体──」
「腕を見せてって言ってるのに、おもしろみのニャイひとねぇ?」
朋也の質問を遮るように、つまらなそうな声で挑発する。要望を満たすまで話に応じるつもりはなさそうだ。
腕を見せろったってなあ……。相手はモンスターでも何でもない生身のネコ族の女の子だし、闘う理由もない。だが、彼は弄ばれてるようでちょっとムッときた。一日エデンにいた程度で果たしてどれくらいスキルが上がっているかわからないし、正真正銘のネコ族の前で通用するとも思えなかったが、なんとかしてこの子の背後をとってやりたい。
爪を装着し直し、神経を集中する。神木に駆け上ったときの昂揚感が取り戻せるといいが。朋也は彼女の動きを捉えて何とかついていこうとした。だが、結局彼女のスピードに合わせるのは明らかに無理だと悟る。後は山勘を張って〝次の次〟の行動に焦点を合わせるしかないか。それなら自分でもできそうだ。
「いい加減にしろ、この!」
頭にきたジュディが剣でなぎ払おうとする。おいおい、ちゃんと峰打ちにしてるんだろうな? ちなみに、彼女の剣は西洋剣に似ているが一応峰がある。
ひるみはしなかったものの、ネコ族の女の子の注意が分散される。しめた!
戦術どおりに二手先に照準を定め、朋也はついに崖際に寄ろうとした彼女の先手を取った。
「はい、降参♥」(注)
背後に回られた彼女は、そこでピタリと動きをやめて両手を挙げた。ずいぶん虫のいい話だな、自分のほうから突然けしかけてきて。大体こっちは引っかかれたほっぺたがまだ痛むのに。
「それにしても、ずいぶん物騒ニャ物持ってるわね?」
彼女の手には、朋也のポケットにしまわれていたはずの千里のスタンガンが握られていた。いつの間に!?
(注):ゲーム中では戦闘に入り、一定ターン以内に倒さないとミオの好感度が下がる。