ミャウの言うことはいちいちもっともかもしれない。だが、朋也にはジュディの気持ちが痛いほどよくわかった。それに彼自身、誘拐されたときの千里のジュディの名を叫ぶ声と必死な眼差しがずっと脳裏から離れなかった。1分でも1秒でも早く彼女を助け出して、ジュディがこうして無事でいることを知らせてやりたい。現場にいなかった部外者のミャウに、それを理解してもらうのは難しいかもしれないが。
「俺はできれば先へ進みたい。みんなが歩けるうちは」
「ふぇぇぇ~~(T_T)」
マーヤは半泣き状態だ。まあ、体力は彼女がいちばん低いし、ジュディにヒーリングを使って消耗してるだろうからかわいそうだとは思うけど。
「だ・か・ら、もう一歩も歩けニャイって言ってるでしょぉ!? ニャンでバカイヌの言うことばっか聞くのさァ!?」
今度はミャウが強硬に異を唱える。一歩もってのは嘘だと思うが。それに、そんなにジュディを贔屓してるつもりはないんだがなあ?
2人に助け舟を出したのはフィルだった。
「あの……お言葉ですが、ここはお休みになっていかれたほうがやはり賢明なのではないでしょうか? クレメインの森の中は神木の結界によって出没するモンスターのレベルも低く抑えられていますが、一歩外に出ればもっと危険な種類のモンスターがあふれています。ビスタに着くまでは休めませんし、ミャウさんのおっしゃるとおり夜間の捜索活動に制約がある以上、こちらで体力を十分回復されていったほうが、千里さんのためにもなるのではないでしょうか?」
「フィル、ナイスフォロォ~♪」
「ちぇ、わかったよ……」
フィルに諭され、ジュディは渋々応諾した。最後の台詞には、彼女も同意せざるを得なかったのだろう。
ジュディがよしとした以上、朋也にも異存はなかった。ミャウは自分の意見だけで通らなかったのが気に入らないらしく、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
こうして一行は、森の北側の出口に近い林間の空地で1日の疲れを癒すことにした。フィルが付近の神木の結界を強化してくれる。マーヤのコンパクトより効力は高そうだ。寝袋がないため、フィルの許可を得て火を起こし、交代でモンスターの見張りと火の番をすることにする。
朋也にとってはエデンで過ごす2日目の晩である。ずっと制服を着っぱなしだったが、なぜか汗も臭いも気にならない。これもP.E.のおかげらしい。エデンでは洗濯の必要がほとんどないという。モノスフィアの住民にしてみればうらやましい限りだ。
最初の不寝番を買って出た朋也は、揺れる焚き火の炎を見つめながら、この夜を独りぼっちで、見ず知らずの場所で迎えている千里のことを思い浮かべた。異世界で拉致されてひどく心細い思いをしてるだろう。きっと不安で満足に眠ることもできないんじゃないか。いや……彼女のことだから、自分の身よりジュディの安否のことばかり考えているに違いない。
ふと傍らで横になっているジュディのほうに目をやる。目はつぶっていても尻尾の先が時折パタパタと揺れているところをみると、やっぱり彼女も寝付けないと見える。まだ完治していない自分の身体より、千里のことで頭がいっぱいなんだろう。
2人をこの世界に連れてきてしまったことへの後悔の念が、また朋也の胸の内をうずかせる。だが、過ぎたことをクヨクヨ思い煩っても始まらない。ともかく、明日中には2人を再会させてやらなくちゃ……。
不意にミャウが立ち上がって席を離れようとした。
「どうしたんだ?」
「ちょっとお手洗い。のぞいちゃ駄目ヨ♥」
……。
「気をつけろよ」
ものの1分もしないうちに、今度はジュディがぱちっと目を覚まし、ミャウの後を追う。連れ……か?
行きがけに、朋也に向かってぶっきらぼうな一言を投げていく。
「のぞくなよっ!」
……。変身前が懐かしい(T_T)