焚き火の光の届かない闇夜の森の中で、1対のグリーンの瞳だけが怪しく光る。双眸は外見上ニンゲンのそれに似ていたが、瞬時に反応する2本の括約筋と暗がりの光を集積するタペタム層はネコ時代のままだった。その紡錘形の瞳の持ち主は、今日の首尾と明日からの計画について目まぐるしく頭を働かせていた。
そこへ別の1対の光が現れ、近づいていった。
「おい……一体どういうつもりなんだ、〝ミオ〟!?」
ジュディが背中越しに〝ミャウ〟に声をかける。
「朋也のやつ、お前のこと必死になって捜し回ってたんだぞ!? なんで正体を隠す必要があるんだよ!?」
「……で、あんたがお節介を焼いて連れてきたってわけ? ずいぶんと余計ニャ真似をしてくれたものね。おかげで計画が狂っちゃったわ」
「何だと!? 一体誰のためだと思ってんだ!!」
「あんたには関係ニャイことじゃニャイ。〝他人のため〟に行動したつもりニャら、結果が気に入られニャかったからって相手の所為にしニャイことね」
そのおかげでご主人サマがいま危険な目に遭わされてんだぞ! そう怒鳴りたくなるのをぐっとこらえ、ジュディは抑えた声で尋ねた。
「お前、朋也に会えて嬉しくないのかよ? 自分の主人だろ?」
「バカね、あんたたちと一緒にしニャイでよ。朋也は別に主人でも何でもニャイわ。あたいの主人は〝ア・タ・イ〟よ。まあ、もっともこの際だから、彼にはいろいろ役に立ってもらうつもりだけど……」
「フン、恩を仇で返すなんて最低だな」
軽蔑心も露に鼻を鳴らす。
「あら、仇で返すつもりニャンてニャイわよ?」
〝ミャウ〟は片目を吊り上げて唇を尖らせた。そして、ジュディに対し釘を刺すように付け加えた。
「言っとくけど、くれぐれもこれ以上要らニャイ真似はしニャイようにね? 〝あの女〟を助けるのに協力して欲しいんでしょ?」
そう言うと、〝ミャウ〟はしなやかな尻尾をくねらせながら皆のところに戻っていった。
しばらく彼女の後ろ姿を見送ってから、ジュディはポツリとつぶやいた。
「ったく、これだからネコってやつは信用ならないんだ……」
翌朝は霧もなく快晴に近い天気で、気温も快適な申し分ない日和だった。寝袋をたたむと、一行はさっそく出発した。
昨夜休憩した場所から2時間ほど歩いたところで、彼らはやっとクレメインの森の外れに到着した。目の前に続く街道をたどればビスタの街だ。
「皆さんとはここでお別れです。森を危機から救っていただきながら、肝腎なときにお力添えできず、本当に申し訳ありません」
フィルが会ったときと同じように深々とお辞儀する。
そう、クレメインの樹の精であるフィルは森から離れられないため、彼女と道行をともにできるのは森の境界までだったのだ。出会ってからのこれまでの経緯を振り返った朋也が彼女に述べたのは──