ミャウの言うことはいちいちもっともだった。千里の安否は確かに気がかりだが、みな相当消耗しているし、ハプニングの連続で日暮れまでにビスタの街に辿り着けなかった以上、森の精フィルに同伴してもらえるうちに体力を回復しておいたほうがいい。
「そうだな。今夜はここで休んで明日の捜索に備えよう」
「おい、朋也! 明日の朝まで待つつもりか!? それまでの間にご主人サマがどうなってもいいのかよ!?」(注)
思ったとおり、ジュディはなおも強硬に反対し続けた。もっとも、一番回復の必要があるのは、まだあの大怪我から完全に立ち直ってない彼女なのだ。
「そんなこと言っても、お前だってまだ身体が治ってないじゃないか。そんなんじゃ街までとても歩いてなんか行けないぞ?」
少々語気を強めて彼女を説得しようと試みる。が、ジュディは折れようとはしない。
「そんなことないやい! ボクはまだへっちゃらだぞ!」
「ジュディったらぁ~、あなたいっぺん死にかけたんだから、ほんとに無理しちゃ駄目よぉ~?」
マーヤも朋也と並んでジュディの説得に加わる。彼女自身懸命のヒーリングで消耗してるはずだが、彼女がミャウに賛成したのはやっぱりジュディの身を案じたからなのだろう。
「あの……ジュディさん。お言葉ですが、ここはお休みになっていかれたほうがやはり賢明なのではないでしょうか。クレメインの森の中は神木の結界によって出没するモンスターのレベルも低く抑えられていますが、一歩外に出ればもっと危険な種類のモンスターが溢れています。ビスタに着くまでは休めませんし、ミャウさんのおっしゃるとおり夜間の捜索活動に制約がある以上、こちらで体力を十分回復されていったほうが、千里さんのためにもなるのではないでしょうか?」
「フィル、ナイスフォロォ~♪」
「ちぇ、わかったよ……」
フィルにも諭され、ジュディは渋々応諾した。最後の台詞には、彼女も同意せざるを得なかったのだろう。
こうして一行は、森の北側の出口に近い林間の空地で1日の疲れを癒すことにした。フィルが付近の神木の結界を強化してくれる。マーヤのコンパクトより効力は高そうだ。寝袋がないため、フィルの許可を得て火を起こし、交代でモンスターの見張りと火の番をすることにする。
朋也にとってはエデンで過ごす2日目の晩である。ずっと制服を着っぱなしだったが、なぜか汗も臭いも気にならない。これもP.E.のおかげらしい。エデンでは洗濯の必要がほとんどないという。モノスフィアの住民にしてみればうらやましい限りだ。
最初の不寝番を買って出た朋也は、揺れる焚き火の炎を見つめながら、この夜を独りぼっちで、見ず知らずの場所で迎えている千里のことを思い浮かべた。異世界で拉致されてひどく心細い思いをしてるだろう。きっと不安で満足に眠ることもできないんじゃないか。いや……彼女のことだから、自分の身よりジュディの安否のことばかり考えているに違いない。
ふと傍らで横になっているジュディのほうに目をやる。目はつぶっていても尻尾の先が時折パタパタと揺れているところをみると、やっぱり彼女も寝付けないと見える。まだ完治していない自分の身体より、千里のことで頭がいっぱいなんだろう。
2人をこの世界に連れてきてしまったことへの後悔の念が、また朋也の胸の内をうずかせる。だが、過ぎたことをクヨクヨ思い煩っても始まらない。ともかく、明日中には2人を再会させてやらなくちゃ……。
不意にミャウが立ち上がって席を離れようとした。
「どうしたんだ?」
「ちょっとお手洗い。のぞいちゃ駄目ヨ♥」
……。
「気をつけろよ」
ものの1分もしないうちに、今度はジュディがぱちっと目を覚まし、ミャウの後を追う。連れ……か?
行きがけに、朋也に向かってぶっきらぼうな一言を投げていく。
「のぞくなよっ!」
……。変身前が懐かしい(T_T)
(注):ジュディ変身時に約束していると「うそつき!」と言われて彼女の好感度が大幅に下がる。